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SNOW ROSE
兄弟の章
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の高さは知っている。まず落とすこともないだろうが、問題が無いわけではないな。」
「だがしかし、何とも無念なことよ。自らの手で指揮したかったであろうに…。」
 男爵の顔が陰った。
「言っても仕方ないことだ。今は彼らがどう演奏したかを想像し、出来得る限りそれに近付けることが肝心だ。我らが光の下で演奏すれば、彼らもきっと喜んでくれるに違いないと言うものだ。」
 あれこれと話し合っているうち、男爵はふと気付いたことがあった。
「サンドランド。お前…我が弟の葬儀の際に店を貸し切った時、わざと演奏せなんだな?あの時は、お前が演奏するものとばかり思っておったが…。」
 あまりにも遅すぎる問いに、サンドランドは呆れ顔で言った。
「今更何を言ってるんだ。」
「やはりそうか…。お前はジョージがマルクスの息子であることを知っていたのか?」
「そうではないが…。あまりにもヤツに似ていたから、もしかしたらと思ったんだよ。多彩なところは親譲りだったな。」
 そう言うやサンドランドは席を立って、近くに置いてあったリュートに手を掛けた。
「しかし…あれ程の腕前になるとは…。」
 一人調弦をしながら呟いた。その呟きを聞いた男爵は、眉を潜めて聞いた。
「どう言う意味だ。あたかも最初から知っていたようではないか。やはり…」
「そうではないのだ。実はな、ジョージは弟の館で三年ほど働いていたんだよ。そこで弟は、彼に何が出来るかと問ったことがあった。ジョージは料理から音楽まで何でもやると答えたそうだよ。そこでリュートをフィリップに教えさせようとしたらしいが、フィリップの方が舌を巻いたと手紙には書いてあったよ。手紙のことはジョージには内緒にしていたがね。姓は聞いてなかったが…会って一目で間違いはないと確信したよ。」
 なんということもなげに言うサンドランドを見て、男爵は溜め息を吐いて呟いた。
「ま、今更だな。やっと分かった気がする…。」
 その後、部屋の中にはサンドランドの奏でるリュートの響きが広がった。
 曲はマルクスの<ファンタジア>であった。


 翌日の昼、兄弟への追悼ミサが厳かに執り行われた。
 出席者は皆、黒い喪服に身を包み、教会内で演奏される曲に聞き入っていた。

善き者を招き給え
大地を統べる女神よ
数多の艱難を経て
汝の花園へ招き給え
世が過ぎ去ろうとも
我らを忘れ給うな
大地を統べる女神よ
死したる者を哀れみ
汝の花園へ招き給え

 歌われているのは、ジョージ作曲のカンタータである。
 アルトと弦楽、通奏低音のみの小さなものだが、慈愛に満ちた傑作であった。
 ここでアルトを歌っているのはあのメルデンであるが、張りのある彼の美しい声がこの曲を一層輝かせていた。
 演奏が終了して後、司祭が第一の説教を始めた。

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