兄弟の章
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、天成の性格だったと言っても差し支えないだろう。
ジョージが楽師に任命された時、たった数日ではあったが聴きにきた客は、この二ヵ月の間にも何回も彼を訪ねてきた程である。
「どう客に説明するんだ。オーナーよぅ…。」
アッカルドが顔を上げて、サンドランドを見た。その顔には悲痛な感情がありありと表れていた。
「黙っておくわけにもゆくまい…。」
サンドランドは深い溜め息を洩らした。
そんな時、いきなり裏戸が開き、そこからフォールホルスト男爵が入ってきた。
「サンドランド、訃報は知っているようだな。話が早い、私と共にレヴィン兄弟の墓所へ行こう。我が楽師であるジョージのため、私は彼らを弔いに行く。」
入って来るや突然の物言いに、皆呆気にとられた。
その中にあって、サンドランドは淋しげな笑みを見せて答えたのであった。
「勿論だ。ジョージは私の店の家族でもあったのだ。行かぬ訳にはゆくまい。お前の事だ、もう準備は進めてあるのだろ?」
「ああ、夜にでも出発出来る。お前はどうだ?」
「大丈夫だ。店は暫らくアッカルドに任せることにしよう。帰ってきたら、お前の楽団を借りるかも知れんがな。」
「そんなことであれば容易い用と言うものだ。」
そう言って二人とも淋しげに微笑んだ。
暫らくして、サンドランドは何かを思い出して言った。
「リチャード、渡さねばならんものがあるのだ。」
「お前がファーストネームで呼ぶのは久しいな。して、何なのだ?」
そう男爵に問われたサンドランドは、二階にあるジョージの部屋へ男爵を連れてきた。
その部屋は、ジョージがここを立ってからそのままになっていた。
その一角に机があり、サンドランドはその机に置いてあった一冊の本を取って男爵に渡した。
「これだ。今日仕上がってきたのだ…。」
それは美しく装丁の施された、一冊の楽譜帳であった。
男爵は、表紙に書いてある文句を読んで驚いた。
そこにはこう書かれていたのである。
― 些末な私に、大いなる恩恵と機会を与えて下さった主人、リチャード・ラルゲ・ライヒェルト・フォン・フォールホルスト男爵に謝意と畏敬の念を込めてこの曲集を捧げます。
王暦三百四年五月九日
ジョージ・レヴィン ―
九日は、この曲集が完成した日を示している。
「何と…。協奏曲が十二、ソナタ六曲、カンタータが一部…。この我に献呈してくれたと言うのか…。」
分厚い楽譜帳を捲りながら、男爵は目頭を押さえた。
「これを彼の手による演奏で、聴きたかったものだな…。」
「実はな、もう一つ別のものも届いていたのだ。」
浸っていた男爵に、サンドランドはもう一冊、編んだだけの帳面を差し出した。こちらもかなり厚い。
「これは…?」
男爵はその表紙を見て、またもや驚かされた
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