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SNOW ROSE
兄弟の章
Y
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月間村へ留まり、演奏活動と作曲を平行して行なった。
 時には隣村からの依頼で演奏に出掛けたり、恩ある子爵への感謝として演奏会を催したりもし、目の回る様な忙しい日々を送っていた。
 作曲では弟ケインを偲ぶ葬送モテットを書き、村の教会で初演した。
 無論、演奏会ではケインの曲も演奏され、その人気は高かったと言われている。
 ジョージがそうやって活動していた時、老夫婦は彼のサポートをしていた。
 ケインの曲を演奏するためには、パートごとの楽譜を作らねばならない。そういった細やかな仕事を、この老夫婦は行なっていたのだ。そうやって、少しでもジョージの支えになれればと思っていたのである。

 そうして月日は足早に過ぎ、ジョージはサッハルへ帰還することになった。
「ジョージや。お前はこの二月、休む間もなく働き続けた。まるでケインの死を思い出さぬ様しとるみたいに…。わしゃ心配じゃて。見ててこっちが辛いようじゃ。あまり無理はせんでくれ。」
「そうだよ。ケインだってもしお前が倒れでもしたら、心配でゆっくり眠れないじゃないのさ。自分のことをちゃんと考えるんだよ。ケインのお墓は、私たちがしっかり守ってるから心配はいらなからね。」
 この老夫婦が心配するのも無理はない。
 この二ヵ月、ジョージの働きぶりは尋常を逸していた。殆ど睡眠も食事も摂らずに演奏と作曲に明け暮れて、傍から見れば、それは死に逝くものが必死で何かを残そうとしている風にも見えた。
「大丈夫ですよ。まだ駆け出しですから、このくらいしないと認めてもらえないし、それに男爵様やサンドランドさんの顔に泥を塗るようなことは出来ないから。男爵様へ献呈する曲集は出来てますし、街へ帰ったら暫らく休みますよ。」
 心配顔の老夫婦に、ジョージは微笑みながら答えた。
「お前がそう言うんだったら心配も要らんじゃろう。疲れたらいつでも帰ってくるんじゃぞ。ここがお前の帰る場所じゃからな。待っておるからのぅ。」
「分かってます。ありがとうお爺さん、お婆さん。じゃ、行ってきます。」
 馬車には、もう荷物は積んであった。浄書されたジョージの楽譜だけは、一足先に街へ送ってあるため手元にはなかった。
 その理由は、献呈用に製本するためにサンドランドへ頼んだためである。
 ジョージは祖父母に挨拶を済ませると、呼んであった馬車へと乗り込んだ。
 ジョージが乗り込んだことを確認すると、馭者は出発のラッパを鳴らし、そうして馬車はゆっくりと走りだした。
 その時、走りだした馬車の周りに、多くの村人達が集まってきた。
「また帰っておいでよ。」
「街へ行っても元気でね。」
「いつでも戻って来るんだよ。」
「あの素晴らしい演奏を、また聴かせとくれね。」
 色とりどりのバラの花びらを散らしながら、村人達はジョージの出発を祝福し
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