兄弟の章
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曲の一つでもあった。
リュートの切ない響きが空間を満たし、ジョージのボーイ・アルトが彩りを添える。
ああ、大地の女神よ
愛しき者が死に逝く時
どうか我も去らせ給え
慈しみ深き女神よ
その優しき心もて
雪の花を咲かせ給え
愛しき者と
永久にあるために
ああ、大地の女神よ
わが願い枯れし時
白き風もて憩わせ給え
その流るる涙もて
わが心潤し給え
愛しき者を
見失わぬように
ああ、大地の女神よ
卑しき者が臨む時
花の棘もて退け給え
おお、情厚き女神よ
その温かき御心もて
永遠の愛を抱かせ給え
この死もて叶えさせ給え
緩やかな旋律が、聞く者の心を包み込んでいた。
彼がリュートでの後奏を終えた時には、惜しみない拍手が送られたのであった。
その中には、感極まって涙するものまであったと言う。
「彼の奏でる音は、どこかしら祈りにも似ている。」
そう呟いたのは、コック長のアッカルドだ。その横にいたサンドランドも頷いた。
「ジョージの弟だが…あまり躰が良くないと聞いている。彼は必死なのだ。自分に出来ることは全てやってのけるだろう。どうにか力になってやりたいのだがな…。」
サンドランドはアッカルドに寂しげな顔を見せ、そのまま厨房へ入って行ったのであった。
そんなサンドランドにつき従うかのように、アッカルドも拍手の鳴り止まぬホールを後にした。
未だ鳴り止まぬ拍手の中、男爵がジョージの前に歩み出て来た。そして、自らが着けていた指輪を外し、それをジョージに与えて言った。
「実に見事な演奏であった。近年稀に見る逸材よ。亡き我が弟も、さぞ喜んでおるだろう。汝、名を何と申すか。」
ジョージは指輪を受け取り、膝を折って恭しく礼を取った。そして問いに答えるように、男爵へ顔を上げた。
「私の名は、ジョージ・レヴィンと申します。」
その名を聞いた男爵は少し驚いた表情を見せ、ジョージに一つ質問を投げ掛けた。
「もしや…六年程前に馬車事故で亡くなった、あのマルクス・レヴィンの息子ではないか?」
マルクス・レヴィン。リュート奏者であり名高き吟遊詩人でもあった彼は、当時世間を賑わせていた。
死の三年前に王宮の宮廷楽長に就任し、そこで数多くの歌曲を残した。
リュート奏法に関しての著書もあり、十三弦の調律を微妙に変化させることにより、多彩な音を紡ぎだしたことでも有名であった。
「はい…。マルクスは…私の父です。」
その答えに男爵のみならず、周囲の人々も目を丸くした。
それは無理もない。
マルクス・レヴィンの家族四人は馬車事故の際、全員が死んだとされていたからである。
「なんと!生きておったのか!何故に王に庇護を願いでなんだ。マルクスの息子であれば、相応の待遇が受け
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