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SNOW ROSE
兄弟の章
I
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い。」
 一瞬、兄のジョージが現れるかと期待したが、入ってきたのは祖父であった。
「具合はどうかな。今日は晴れとるし、割合に暖かい。少し窓でも開けるかのぅ。」
 祖父はケインの食事を運んできたついでに、ベッド脇の窓を開け放った。
 風は未だ暖かいとは言い難かったが、籠もった空気を追い払って清々しい気持ちにさせてくれた。
「良い日和りじゃ。たまには換気せんとのぅ。」
 祖父はそう言って頬笑んだ。
 空は雲一つない青空であった。が、ケインの心の曇りまでは拭い去ってはくれないようであった。
「ねぇ、お爺さん。この三日程、兄さんの姿が見えないようだけど…。」
 ケインの質問に祖父は眉を寄せ、椅子に腰を下ろした。彼は腕組みをしながら、どう話しを切り出そうか思案に暮れている様子である。
「どうしたの?兄さん、もしかして…。ねぇ、お爺さん…。」
 尚も尋ねてくるケインに、深い溜め息を洩らして話し始めた。
「ケインや…。ジョージはな、サッハルの街に働きに出とるんじゃよ。」
 ケインは目を丸くした。
「それって…」
「いやいや、わしらも止めたんじゃがのぅ。もう働き先も見つけて来ておって、今回ばかりは止めきれんかったんじゃよ…。」
 サッハルとは、このメルテから馬車で七日近くかかる街で、男爵が統べる大きな街でもあった。おいそれと帰って来ることも儘ならないのである。
「だからあんな話しを…。」
 ケインは泣きそうになった。自分がこんな躰じゃなかったら…そう思えて仕方なかった。自分の弱さを嘆き、そして憎んでいたのだ。
「ケインや、そんな悲しい顔をせんでくれ。」
 祖父が優しく語りかけてくる。
「ごめんね…。僕、お爺さん達や兄さんにまで迷惑かけて…。」
「何を言っとる。皆お前のことが好きなんじゃ。何の苦労があるものかね。皆で生きてる、それがどんなに幸せか。覚えていなさい。皆、ケインを愛しているんじゃ。」
 祖父はそう言って、ケインの頭を優しく撫でた。
 ケインは少し微笑んで、そっと、か細い自分の手を見つめたのだった…。





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