MR編
百四十話 冷たい雨
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絡もしていただければ、面会もしていただけますから」
「はい」
コクリと頷く明日奈は、やや緊張した面もちでそれと……と続ける。倉橋医師は彼女の言わんとする事を察したようにコクリと頷いた。
「内容にも寄りますが、接続やアクセスの問題に関しては可能な限りこちらでも対処させていただきます」
「はいっ!ありがとうございます!」
顔を花のように綻ばせて頭を下げる明日奈に、美幸が我が事のように微笑んだ。
「どれ、んじゃ帰るぞお前等。一雨来そうだ」
「あ、うん」
「先生、失礼します」
「えぇ、お気をつけて」
軽く手を上げて見送ってくれる倉橋に深々と礼をしながら、三人はその場を後にする。
駐車場にある涼人の車に滑り込み、車が走り出すと直ぐに、助手席の美幸が嬉しそうに言った。
「良かったね明日奈、木綿季さん、ちゃんと見つかって」
「うん!」
大きく頷いた明日奈は少しだけ真剣な顔になると、それでも歓喜を押さえ切れていない表情で身を乗り出して運転席を覗き込んだ。
「ありがとう、サチ……それにリョウ」
「ん?なんだよ、俺達は、こっちの都合でお前に付いてっただけだぜ?」
苦笑して肩をすくめた涼人を見ながら、明日奈は首を大きく横に振った。
「そうじゃなくて、サチはユウキと二人で話す時間を作ってくれたこと。リョウは、キリト君と一緒にユウキを見つけてくれたこと。どっちも……お陰で私なりに納得できる答えが出せた。みんなのお陰よ……本当にありがとう……」
歓喜と感謝の入り混じった表情で、明日奈は目を閉じて小さく頭を下げる。
その様子を車内ミラーで確認した涼人はばつが悪そうに頬を掻くと、ややぶっきらぼうに返した。
「はぁ……初めに見つけたのはカズで、俺は乗っかっただけだ……そういう言葉は、嫁さんの為に一番必死だった剣士さんの為に残しといてやんな」
ついでにディナーでも作ってやりゃあ、彼奴も心底喜ぶだろうよ。と、カラカラと笑う涼人に、明日奈は心を温められるのを感じながら、微笑んで勿論と頷く。
そんなやり取りを、美幸は嬉しそうに眺めていた。
「っ…………」
右手で無意識の内に、まるで息苦しさに喘ぐように、胸を抑えながら。
――――
「さて、そろそろ着くぞっと……」
「あ、此処で大丈夫だよ?」
東京都港区、六本木。美幸の家があるその街のマンション前でハンドルを回す涼人に美幸が路肩を指差した。しかし一瞬だけ其方へ泳がせた視線を、涼人は直ぐに正面に戻す。
「いんや。一回駐車場に入れんぞ。お前傘持ってねぇだろ?」
「あ、う、うん」
涼人が危惧した通り、この日の関東は午後からしとしとと雨が降り始めていた。美幸のマンションの入り口はすぐ近くではあるが、このまま路駐で卸すと多少濡れる羽目になるだろう。
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