MR編
百四十話 冷たい雨
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て言わないでよ……」
「アスナ……」
アスナの不安を察したように、ユウキは少しだけ遠くを見るような視線で、アスナを見た。すると小さく、やや悪戯っぽく笑って、ユウキはこんなことを言った。
「……じゃあ、ボク、学校に行ってみたいな」
「学校……?」
やや意外な発言に少しだけ首を傾げたアスナに、ユウキはどこか照れくさそうに小さく笑ってうなづく。
「VRでも、学校はあるんだよ?でも、なんていうのかな……作り物っぽいっていうか、お行儀がよすぎるっていうか……だから、リアルの、本物の学校に行きたいんだ」
「学校、か……」
しかしユウキはリアルでは活動することすらできない。せめて現実の物を自由に見たり聞いたりできれば、そんなことを思って、アスナはふとそんな話を最近聞いたような気がして、人差し指の第二関節を下唇に充てる。
その様子に気が付かないまま、ユウキはどこか申し訳なさそうに小首をちぢこめた。
「ごめんね、無茶言って。でも、ボクこれでも、本当に満足なんだよ……?アスナ?」
「……!行けるかもしれない」
「へっ?」
ぽかんと口を開けたユウキに、アスナが興奮したように返した。
「行けるかもしれないよ!学校!!」
────
「ふふっ、よかった……」
眼下で興奮したように話すアスナと、戸惑いつつ話を聞くユウキを見ながら、サチは穏やかに微笑んだ。
アスナが随分と興奮しているようだが、一体どうしたのだろう。そんなことを思いつつ、サチは時計を確認する。約束の二十分まではあと七分ほどある。もう少し、二人だけで話す時間があってよいだろう。そう考えつつ、ゆっくりと上昇し始める。
「…………」
ユウキという少女があるいはああいった境遇にあるのかもしれないという事は、涼人からメディキュボイドの話を聞いた時から……いや、あるいはそれよりも前。彼女に初めて会った時から、なんとなく察していた。
彼女の中にどこか、記憶に焼き付いた少女の片鱗を見ていたから。
「…………」
伸ばした手が、浮遊上の幾層にも連なる天井に触れる。
冷たい鉄の感触が掌に広がり、それから羽を広げてゆっくりと墜ちていく……
「…………」
ふと右に首を傾けると、地面と天井の間から、層をとり囲む柱の向こうに朝焼けの空が見えた。
湖面が昇り始めた朝焼けの色と、うっすらと青く染まり始めた空を映している。
「…………そこに、いるの?」
泣く寸前の子供のような顔をしながら、サチは暗い蒼穹の彼方へと手を伸ばす。
もう届くはずもないのだと知っている“誰か”の元へ、手を伸ばす。
小さく吹いた風が、一粒こぼれた滴を、どこへともなくさらっていく……
────
「先生、ありがとうございました」
「いえ、また何時でもいらして下さい。事前の連
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