MR編
百四十話 冷たい雨
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ーチャルホスピスでのことだったのだという。その医療系ネットワークの中でも、特にある一定の重症患者……具体的には、余命宣告や、治療不能な病などの深刻な症状を持つ患者たちが交流する場として設けられたサーバーであるそこで結成された、「最後の時までの時間を、VR世界での旅で過ごす」という目的で結成されたギルド。それが、《スリーピング・ナイツ》だった。
初代ギルドマスターは、ユウキの姉である紺野藍子。
ユウキいわく、自分以上に高いVRゲーマーとしての能力を持っていたのだという。
《スリーピング・ナイツ》に所属するメンバーははじめ、九人だったのだそうだ。
しかし初代マスターである藍子を入れて、すでに合計で三人がこの世を去った。そして残りのメンバーにも、“その時”は確実に迫っているのだという。
だから、ユウキたちは一つの決断をした。
次の一人がもしこの世を去る時が来たなら、その時はギルドを解散しよう。……と。
そして同時に、解散する前に、残ったすべてのメンバーで、これまでで最高の冒険をしようと考えた。そう、いつの日か“向こう側”へと旅立つ日が来たとき、胸を張って土産話にできるような、そんな思い出を。
「春に、スリーピング・ナイツが解散する本当の理由はね……長くてあと三か月……って告知されたメンバーが三人いるからなんだ……ごめんね、アスナ。最初に会う前、だれかに助っ人を頼もうって言ったとき、シウネー達に、「知られたときにいやな思いをさせちゃう」って、ボクちゃんと言われてたのに……その通りになっちゃった……本当に、ごめん……」
「……謝らないで?ユウキ」
泣きそうな声で言ったユウキに、アスナは小さく首を振ってこたえた。心の内から生み出された素直な気持ちが、口から言葉としてあふれ出る。
「確かに、ショックはあるよ……?でも私、ユウキたちと出会ったこと、一緒に冒険したこと、一つも後悔してない。嫌な思いなんてしてない。今だって、スリーピング・ナイツに入れて欲しいし、ユウキたちのこともっと知りたいって思ってる」
「…………あぁ……」
まるで花からこぼれる朝露のような小さな吐息とともに、ユウキはどこか濡れた声を漏らす。
「ボク……アスナと出会えて、あの世界に出会えて、本当にうれしい……もう、今の言葉で、全部満足だよ……もう、十分すぎるくらい……」
その言葉に、アスナは小さな焦りと危惧を覚えた。その言葉を受け入れてしまったら、胸の中の少女は、本当に幻の存在となって消え去ってしまうような、そんな気がしたのだ。
抱いていた肩から少し離れ、目線を合わせて、アスナは問う。
「まだ、まだ、あるでしょ……?アルヴヘイムで行きたい場所……ほかのVRワールドだって良い。したいこと、行きたい場所、沢山あるでしょう……?満足なんて、十分だなん
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