MR編
百四十話 冷たい雨
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るように、ね?」
「ありがとう……!」
言うが早いが、アスナは森の家から飛び出した。ユウキがどこにいるのかは、もう知っていた。
────
冬の冷気の中の飛行は、思いのほか寒さが身に応えるものである。VRであっても、いや、だからこその寒気を高速で飛行する感覚が明日奈に身を切るような冷たさを与えたが、今の彼女にとってそれらは些末事の範疇にすら入らないほどの、意識外にある事象だった。
朝方の時間帯で薄暗くなっている空を見ながらアスナはパナレーゼを飛び立つ。湖の上には薄く靄がかかり、晴れていればすぐに見えるはずの小島をベールのように覆い隠していて、まるでそこだけが本物の異界であるかのような錯覚を彼女に与えた。
人が超えてはならない、あちら側とこちら側の境界線に横たわる霧に包まれた水辺……
「っ……!」
浮かび上がった奇妙なイメージを振り切り、意を決してそのベールの中へと飛び込む。
湖の中央の小島は、当然といえば当然のように、今もその場に存在していた。
島に降り立つと、アスナは即座にその姿を求めて周囲を見回した。しかし、薄暗い明け方の光量と靄によって白く濁る視界は島に上がってすらもアスナの視界を翻弄するように狭め、少しの間、アスナは彼女を見つけられずに彷徨う。一秒一秒が過ぎるたびに、アスナの中に焦燥が溜まっていく。
やがて、一迅の風が吹いた。昇り始めた朝日が世界を薄く照らし、吹き散らされた白い靄の向こうの視界が開ける。
そこに、彼女がいた。
濃い矢車草と同じ色をしたスカート、濃紺の髪と、薄黒く細身な剣。乳白色の肌を持つ闇妖精の少女が、どこか浮いたような動作で振り向いた。
「……不思議だね、なんとなくだけど、ボク、アスナがボクを見つけてくれるような気がしてた。ほんとになるなんて、嘘みたいだよ……すごく、嬉しい」
花の蕾が綻ぶような小さな笑顔を浮かべて少女……ユウキは言った。
ゆっくりとアスナは彼女に歩み寄り、その左肩に触れる。
「……ッ!」
「わっ」
その瞬間に、確かにそこにある熱を、アスナは強烈に求めずにいられなくなり、どこか透明で、幻のようだった彼女の存在を確かなものとして確かめたくて、アスナはその小さな体を抱きすくめる。
少しだけ驚いたような表情をしたユウキはしかし、すぐに微笑んで、その胸に顔をうずめた。
「あぁ……やっぱり、ねぇちゃんと同じ匂いがする……お日様の匂いだね……」
「…………ッ!」
何も言えないまま、アスナはユウキを抱く。数秒にわたってそうしていたアスナに、やがてユウキはぽつぽつと語り始める。
彼女の人生がここに至るまでの、最後の一ページを。
《スリーピング・ナイツ》のメンバーが出会ったのは、《セリーン・ガーデン》という、医療系ネットワーク内のヴァ
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