MR編
百四十話 冷たい雨
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んだお前ェは」
「あっ……あ、あの……ユウキ……私……」
言うべき言葉と、言いたい言葉、其々沢山あるはずなのに、どうしてもそれらが口から出て来ない。そんなもどかしさに、アスナは胸元を抑えた。けれどユウキはそんな彼女の全てを察したように、先に倉橋医師に声を掛けた。
[先生、お願いがあるんです。アスナに……隣の部屋を使わせてあげて下さい]
「え……」
言われた倉橋医師は、一瞬だけ迷うように視線を伏せる。しかしすぐに小さくうなずくと、穏やかに微笑んで言った。
「分かりました。奥の部屋に、私が何時も彼女との面談用に使っているフルダイブ用のアミュスフィアが二台あるので、お使いになってください、ただ手続きを省略しているので、時間はニ十分程で……」
「あ、あのっ!」
その時だった。其れまで何処か嬉しそうに微笑んでいた美幸が、急に声を上げる。彼女は真剣な目で倉橋とユウキの居るであろうカメラ部分を交互に見ると、何処か張りつめた声色で言った。
「二台あるなら、私も、そっちに行って良いかな……私、どうしてもユウキさんに聞きたい事があるの……!」
「サチ……?」
[え、えっと……答えるだけなら、ここでも出来るけど……]
「ごめんね、でも……その……」
困惑したようなユウキの声に、美幸は申し訳なさそうに胸の前で手を組む。けれど彼女の瞳が言いたい事が伝わったのだろう、少しの沈黙の後、ユウキは柔らかな声で答えた。
[うん、分かったよ、それじゃ先生、えーっと]
やや言いにくそうに倉橋医師に声を掛けたユウキに、医師は苦笑しながら頷いて方をすくめた。
「良いでしょう、ただ、時間厳守でお願いしますよ?」
「は、はいっ!」
少しばかりの注意をする教師のような、悪戯を見逃す大人のような、そんな言葉に、表情を華やがせて次々に二人は隣の部屋へと入っていく。その様子を何処か微笑ましく思いながら眺めて、涼人は肩をすくめた。
「なーんか、すんません」
「いえいえ」
────
「コーヒーで良いですか?」
「あ、すんません出来ればコーヒーは……苦手で……」
「おや」
数分後、涼人と倉橋は部屋の外にあった自動販売機の前で腰を降ろしていた。
『女性陣を待つ間に、一息つけましょうか』と、先に提案してきたのは倉橋だった。流れに乗せられおごってもらう羽目になってしまったのは誤算だったが……
「どうぞ」
「あ、ども」
受け渡された有名紅茶飲料のプルタブを開けつつ、涼人は何となく呟くように言う。
「にしても……思ってたよりずっと大がかりなんですね……」
「……あぁ」
話しの流れから、其れがメディキュボイドの事だと察したのだろう。倉橋は小さく笑って、持っていた缶コーヒーを開ける。
「将来的には、ベッド一つに全ての機能
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