MR編
百四十話 冷たい雨
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言う、木綿季君と比べると、大分大人しめなお姉さんでしたね」
「……藍子……さん」
美幸の言葉に小さく頷いて、記憶の奥に残るその少女を思い出すように、倉橋医師は天井を見上げて小さく微笑む。
「そう言えば……成程、顔や雰囲気が何処となく明日奈さんに似ていたかもしれません」
過去形で話す彼の言葉を、涼人は酷く冷静な頭で聞いていた。脳の殆どは、予想される次の言葉を察している。その無言の問いを肯定するようにもう一度だけ頷き、倉橋医師は続けた。
「木綿季くんのご両親は二年前……藍子さんは去年の二月頃に……亡くなりました」
────
自分は十分に闘ったと、そう思っていた。
その闘いの中で、人の死とその重みを、理解したつもりになって居た。
其れが間違いであった事に気が付くことも、気が付こうとすることすらせずに、ただ安寧と今の幸せに固執し、戦わず、ただ状況に流される事に、心の何処かでそれらを言い訳をしていた。
──ぶつからなければ、伝わらない事もある──
その意味を、ようやく明日奈は真に理解した。
生きる事、その全てを闘いとして、残酷な現実に抗い続けてきたその少女の、本当の芯であり矜持の意味、それを知った今、明日奈はこれまでよりはるかに強く、ユウキに会いたいと感じていた。
弱い部分を消し去ること無く話すだけの自分では無い、本当の意味で、彼女の言葉に返す事が出来る自分によって接する事が出来ないのなら、何のために自分は彼女と出会ったのか、何のために、自分は此処まで来たのか。
慟哭に似た欲求が目尻に熱い物を込み上げさせる。強く、強く求める。その欲求が、自らと彼女を隔てる分厚いガラスの壁に、手の平を押し付けさせた。そして……
[泣かないで、アスナ]
「ッ……!」
何処か懇願するようなその声に、弾かれるように明日奈は顔を上げた。しかしガラスの向こうに居る彼女の身体は相変わらず横たわったままだ。今の声は……と、明日奈が困惑するのを察したように、涼人が言った。
「モニターだ。よく見ろ」
「えっ」
言われて、メディキュボイドの脇にあるモニターパネルを見る。其処には薄緑色の文字で、[User Talking]と言う文字が浮かんでいた。その言葉の意味を理解した頭が、ようやく小さな言葉を紡ぐ。
「ユウキ……そこに、居るの……?」
返答までの間は一瞬だった。上部のスピーカーから、確かに少女の声がする。
[……うん、みえてるよ、アスナ……びっくりしちゃった。向こう側と本当にそっくり。それに……あの時のお兄さんも]
「ん?あぁ、覚えてたか」
苦笑しつつ片手を上げる涼人がモニターを見た。続いて何かを口にしようと口を開け閉めするアスナを見て、溜息がちに頭を掻く。
「ほら、なにモジモジしてんだよ、何しに来た
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