MR編
百四十話 冷たい雨
[16/17]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
そこで涼人は一度言葉を切った。その先をいう事を迷っているように見えたが、それでも言葉を止めることはしなかった。
「……それとこれとは全く別の問題だし、あの嬢ちゃんが助かる可能性がほとんどねーっつー事実は変わらん。そいつは……嫌な言葉だが、言っちまえば運命ってやつだ。だからもしその覚悟が出来ねーなら、あの嬢ちゃんにこれ以上深入りしとくのはやめとけ」
「…………ッ!!!」
頭をハンマーで殴られるような衝撃、というのはまさしく、こういうものをいうのだろう。その衝撃が抜けきらず、明日奈は少しの間硬直する。けれどやがて震える唇が、小さく開いた。
「……ずっと、背中を押してくれてたから……」
「あ?」
震えてか細いその言葉が、小さく車内の空気を震わせる。
明日奈自身、いうべきではないとわかっている言葉を紡ごうとしていた。けれどそれを止められないほど、心を大きく揺さぶられてもいた。
「今度も、押してくれるって思ってた……!甘えだって、贅沢だって、分かってる、でも……っ!」
「……明日奈、あのな……」
「リョウにとっては!」
何かを言おうとした涼人の言葉を遮って、明日奈は自分の言葉を主張する。胸の奥底でわずかに残った理性が制止しようとしたが、その小さな制止は、明日奈の胸を焦がす衝動にとっては、焼け石に水だった。
「リョウにとっては……一度デュエルを見て、ちょっと協力しただけの女の子なのかもしれない……でも、私にとっては本当に大切な子なの!ユウキがいなきゃダメなの!リョウみたいに……!」
喘ぐように息を吸う。目の淵からぽろぽろとこぼれだした涙が、車内を濡らした。
「リョウみたいに、私は人の死を見ても何も感じないほど、強くない!!!!」
「ッ!!!!!」
今度は、涼人が完全に硬直する番だった。目を見開いて、一切の表情がその顔から抜け落ちる。言ってから、ようやくとりもどした明日奈のひとかけらの理性がその口を押えたが、もう遅い。
「……ぁ、ぇ、わた、し……」
「……ついたぞ、降りろ」
車が、路肩に寄せられ停車した。
確かに、すでに目的である最寄り駅の目の前だ。しかし……
「……あ、りょ……ごめ……」
「降りろッ!!!!」
一切明日奈のほうを見ることもなく、涼人が怒鳴った。すさまじい剣幕と威圧感のその言葉に、体が跳ね、一瞬で全身を恐怖が支配する。ほとんど危険に対する反射行動のように、明日奈は車から降ろされた。
「リョ……!」
「…………」
降りたドアが閉じられ、窓を開けることもなく車が発信し、走り去る。明日奈はその様子を、手に持った傘をさすこともなく、ただ茫然と見ていることしかできなかった。
────
「…………」
車を走らせながら、涼人は頭を押さえる。明日奈から十分に離れて車を止め
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ