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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十話 冷たい雨
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けていた。

「落ち着け。ゆっくり深呼吸だ。ゆっくりな」
「ひぅっ……かひゅぅ……!」
涼人のよびかけのおかげか、本の少し美幸の呼吸のリズムが安定し始める、が、まだ不規則だ。ほかに何か……と明日奈が思案しようとしたところで、涼人は思わぬ行動に出た。

「……大丈夫だ」
「わ……」
「…………!」
美幸の全身を覆うように、前から涼人の体が美幸の体を包む。
まるで毛布で包むかのように、涼人は背を撫でながら、やわらかく美幸を抱きしめた。

「(わ、ぁ……)」
「ひゅぅ……すぅ……」
それが、効果として現れたのかはわからない。しかし紛れもなくその瞬間から美幸の呼吸が安定し始める。

「……大丈夫だからよ、な。深く、ゆっくり息しろ」
「…………」
普段の彼からは想像もできないほど優しい声で、彼は美幸に語り掛け、美幸の呼吸が安定していく。明日奈はその様子を、ただ立ち尽くしたまま眺めていた。

────

「ふぅ、ま、とりあえず安静にしときゃ大丈夫だろ」
「ごめんね……」
それから十数分のち。マンションの上層階にある、美幸の家のリビングまで彼女を運んだ二人は、美幸をソファに寝かせると、

「やめやめ。今更お前からの迷惑なんぞ、気にしてもキリがねぇ」
「うぅ……」
「リョウ、そういう事は思ってても言わないの。親しき仲にもって言葉知ってる?」
「へいへい」
苦言を呈した明日奈に、涼人が肩をすくめて答えた。この男はこういう口の悪いとこがどうにかなればよいのだが……まぁ、これが涼人らしさだというのは明日奈も党の昔に納得しているため、特にそれ以上何も言うことなく美幸のわきにかがみこむ。

「サチ、大丈夫?」
「うん、もう平気。心配かけてごめんね……?」
「ホントに心配したよ〜」
やや大げさに言うと、美幸は困ったように笑ってごめん、と再び口にした。つられるように小さく笑うが、即座に少し申し訳なさそうな顔をして

「その、本当は、私のほうこそ謝らなきゃいけないよね……」
「えっ?」
「その、ユウキのところに連れて行ったり、いろいろ、疲れさせたりしちゃったのが、やっぱり……」
「あ、う、ううん。そうじゃないの、ただ、これは私の……」
そこまで言って、美幸は急に黙り込んだ。考え込むように、あるいは深く迷うよう上体を起こした姿勢から顔を伏せ、それ以上言葉をつづけようとしない。

「…………」
「サチ……?」
「さて、と」
どうしたの?と明日奈が聞こうとして口を開きかけたのを遮るように、涼人が会話に割り込んできた。何故だか聞くことを制止されたような感覚がして、彼のほうを見る。

「お前もだんだん帰らねーと時間的に不味くねぇか?」
「えっ?」
天井近くの壁掛け時計を見ると、すでに五時を十分ほど過ぎ
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