MR編
百四十話 冷たい雨
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「あれ?サチ、普段折り畳み傘持ってるよね?」
「あ、えっと……」
「スクールバッグならな。お前、降り始めた辺りからやたら外気にしてたろ」
「う……」
「大方、バッグから移すの忘れたってとこだ」
「せ、正解です……」
特にどうといったこともなさそうに指摘にこたえた涼人によって、頬を赤らめながらうつむく美幸を見て、質問者の明日奈は感嘆の声を上げた。
「あぁ……リョウ、目ざといねぇ」
「まぁな」
フッと一笑いしてハンドルを回した車が、ゲスト用の駐車場に入っていく。入り口で美幸の携帯端末から申し込みを済ませて車を通すと、涼人は入り口になっているエレベーターホール前に車を止める。
「ほいついた」
「あ、ありがとう。ごめんねりょう、わざわざ……」
「俺から言い出したんだ。気にすんな」
降り際に申し訳なさそうに言う美幸に、涼人は肩をすくめる。
それらの所作というか、二人の会話の様子は遠慮がなく、けれど配慮はある。とても自然、それでいて独特のちょうどよい距離感があり、まるで付き合いの長いカップルか、夫婦のようだ。……いや、あるいはこれが“幼馴染”というものなのかと、明日奈は微笑む。
「んじゃま、今日はちゃんと休めよ」
「うん、ありがとう。明日奈」
「うん、また明日ね」
短く挨拶を交わして、美幸が車から離れて歩き出す。乗り出した体を深く腰掛けなおして、明日奈は小さく息をついた。と……
「……?リョウ?」
「…………」
車が動かない。美幸が降りたのだからすぐに出せばいいのにその状況に違和感を感じて、明日奈は涼人の顔を見る。そこには、深刻な表情で美幸の去った方向を見る涼人の顔があった。重々しくどこか威圧感すら感じるその顔は、まるで何かを危惧しているかのようで、一体どうしてそんな顔をしているのかと明日奈が聞こうとした瞬間。
「くそ、悪い、降りるぞ」
「えっ!?」
突然涼人がエンジンを切った。彼は即座にベルトを外すと車から降りはじめる。一体何事かと涼人が見ていた方向を見ると……
「さ、サチッ!!?」
美幸が、何もない地面で膝をつき、片手で胸を押さえながら、苦しげに喘いでいるのが即座に目に飛び込んだ。
慌ててベルトをはずし、涼人の後を追うように車から飛び出すと、すでに美幸の傍らにかがみこんで様子を確認している涼人の後ろに飛び込むように駆けつける・
「さ、サチ!どうしたの!?」
「かひゅ……ひゅっ……ヒュウッ……!」
「サチ!!」
「落ち着け。明日奈、お前もだ。ただの過呼吸だ」
「た、ただのって言ったって……!」
あくまで至極冷静な涼人にやや戸惑いつつも、明日奈は彼の様子から少なくともむやみやたらと騒がない程度の冷静さを取り戻す。そんな涼人はというと、美幸の背をさすりながらゆっくりと美幸に呼びか
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