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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十話 冷たい雨
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キャリアーに対する差別意識は根強い物がある。

残念な事に、ユウキの通っていた学校の保護者達の意見は、この時差別側へと傾いてしまったらしい。ユウキの登校に対して反対する申し出や、電話や手紙と言った類の嫌がらせが始まり、数カ月の後、ユウキ達家族は転居を余儀なくされ、ユウキは転校する羽目になった。その直後に彼女のエイズが発症したと言う経緯を語る時、倉橋医師の気配と呼吸から滲みだしていた抑えきれない程の怒気を、表出させない彼の胆力と共に、涼人達は強く感じていた。

人間は本来、自分でも気が付かない内に多くの病原菌に感染している。我々がこれに気が付かずにいられるのは一重に、私達自身も気が付かない内に、身体の免疫機能がこれらの菌を排除しているからである。
しかしエイズの発症した人間は、他の人間と比べて免疫能力が極端に低下する、つまり、そのような力の弱い菌でも、身体に異常をきたしてしまうのである。これを、日和見感染と言うのだが、AIDSは一度発症した場合、この日和見感染に対する場当たり的な対処療法以外に治療を行う事が出来なくなる。
ウィルスが一度活動を始めてしまったら、もうこれ以外にとれる選択肢は無いのである。

ユウキがAIDSを発症してから約数カ月が経った頃、世間は丁度三年前、つまり、ナーヴギア事件の発生した頃だった。フルダイブ技術の是非が世間に問われる中、国と一部メーカーが研究開発を行い、この病院に運び込まれたのが……医療用フルダイブ機器、メディキュボイドだった。

しかし時はナーヴギア事件の真っただ中である。人体に対して、ナーヴギアの数倍の電子パルスがどのような影響を与えるのかすらわからないこの時期、これらのリスクを呑みこんだうえテスターになろうと言いだす患者は多くは無く、テスターとして名乗りを上げたのがユウキだったと言う訳だ。

「木綿季くんとご家族に、メディキュボイドの件を紹介させていただいたのは、私です」
倉橋医師は語った。

「このメディキュボイドは、とてもデリケートな機械です。その関係上、機械は無菌室(クリーンルーム)に設置される事が決まっていました。被験者としてメディキュボイドのテスターになれば……細菌もウィルスも排除された環境下で有る無菌室に入れば、日和見感染のリスクは大幅に低くなる、そうご説明したのです」
勿論、マイナスはある。誰かと直接触れ合う事や、クリーンルームから出る事は出来ないからだ。しかしそれでも、ユウキはメディキュボイドの被験者となった。被験者となり、日に数時間行われるデータ最終実験以外の全ての時を、VRワールドで旅してきたのだ。それは実に、三年間と言う長い長い旅だと、医師は語った。

「…………」
ある種、尊敬に近い感覚が胸の内から湧き上がるのを、涼人は強く感じる。
敬虔、とでも言おうか、遥か
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