放浪剣士
真実の後に
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私の語る過去に、ベルモンドの最後に、アーシェは終始黙り、不気味なほどに大人しく耳を傾けていた。
この話しを聞き彼女は何を思うのだろうか。
彼女こそがベルモンドの愛した魔女なのだろうか。
様々な思考が私の頭を廻っていた。
「話してくれてありがとう…」
彼女は、そう言って部屋を後にしようとする。
それだけか―――。
余りにもあっさりとした彼女の態度に思わず呼び止めてしまう。
「えぇ、私が聞きたかったのはそれだけ」
私はなにも聞けていない。
彼女は一体ベルモンドのなんであったのか。
この話を聞いて、彼女はどうしたかったのかを。
私にも聞かせてはくれないのか―――。
君の知るベルモンドを―――。
君は、私を殺したいのではないのか―――。
だが、彼女は何も答えない。
君が彼の愛した魔女だったならば、君には私を殺す権利がある―――。
その言葉に、彼女はようやくその口を開いた。
「あなたは私に殺されることを望むの?」
彼女の一言に、私は何も答えられなかった。
「誰かを殺す権利なんて誰にもないわ。私が殺すのは望まれたときと、そうする必要があるときだけ…」
私にはその必要はないと―――?
「わからない。ただ、今は生きなさい。私は、あの人が望んだ死であなたを咎めるつもりはない」
彼女は静かに扉を閉めた。
彼女は恐らくベルモンドの愛した女性だったのだろう。
だが、それだけに私は苦しかった。
あの男を殺すため、あの日私がベルモンドを粛清できなかった理由を知るために死ねないと誓いながらも、私は彼女に裁かれ殺されることを望んでいたのかもしれない。
殺されていた方がずっと楽だった―――。
もしや、生かすことが彼女にとって私への罰なのかもしれない。
だとすれば、それは私にとって何よりも重い罰だった。
夜はふけ、日は昇り、朝は再びやって来る。
いまだ、私の罪を残したまま。
一睡も出来ぬまま、私は日の出と共に宿を出た。
当初、彼女の危険性を見極め、必要であれば殺すことも考えていたが、私にはその権利がない。
いや、彼女の言うとおり誰にもないのだろう。
誰かが誰かを殺す権利など。
思えば、それが答えなのだ。
心の奥底。
私達が蓋をしていたのはそれだったのかもしれない。
だからこそ、私はベルモンドを粛清できなかった。
私は、アーシェと別れを告げる事にした。
これ以上、彼女といるのは辛かった。
それに、私と一緒にいれば彼女も奴に利用され殺されるかもしれない。
私は一人、街を出る。
はずだった。
街道へ出たところで朝霧の中に見える人影。
彼女だった。
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