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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十四話  走為上
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隊を叩く。メルカッツ副司令長官も後を追っている筈、挟撃も可能です。負ける要素は有りません」
レンネンカンプ提督、ケンプ提督が発言すると同意する声が会議室に満ちた。皆がエーリッヒに視線を向けた。エーリッヒは微かに笑みを浮かべている。

「私はむしろ彼らの集結を待ってみようかと思っています」
「……」
会議室で無数の視線が交錯した。エーリッヒの言葉の意味を皆が確認している。武勲は望んでいるが危うい戦いを望んでいるわけではない。反乱軍は後がないのだ、卒爾な戦いは危険だ。

「そうなればハイネセンはがら空きですからね。メルカッツ副司令長官は楽に攻略できる」
「それは……」
ケンプ提督が何かを言いかけて口を閉じた。なるほど、こちらは陽動か。しかし反乱軍を引き付けるという事は……。
「……閣下はここで決戦をとお考えですか?」
思い切って訊いてみた。何人かが頷いた。やはり同じ疑問を持っている。エーリッヒらしくない、無意味な危険を冒すような男ではないはずだが……。

「決戦? まさか、そんな事は考えていません」
会議室の空気が緩んだ。
「では?」
「反乱軍が戦いを挑んできても逃げますよ、ミュラー提督」
「それは……」
今度はビッテンフェルト提督が何かを言いかけて口を閉じた。困った様な笑みを浮かべている。

「おそらく反乱軍は我々をジャムシードまで誘導する筈です。そこまでは付き合いましょう。しかしその後は徐々にハイネセンから遠ざかります。今後の事を考えれば必要以上に同盟市民の恨みを買う事は避けたいですからね」
なるほど、戦後の事を考えての事か。宇宙の統一を考えればただ勝てば良いという戦いは出来ないという事だな。

「気付くでしょうな、反乱軍は」
「気付いても如何にもならん」
レンネンカンプ提督とケンプ提督の言葉に皆が頷いた。その通りだ、どうにもならない。我々に背を向ければ後ろから撃たれる。艦隊を分ければ各個撃破が待っている。何より時間的にハイネセン救援は間に合わない筈だ。つまり戦いらしい戦いは起きない……。

「しかしそうなると我々は武勲の挙げ場が有りませんな。ハイネセンには観光に来たようなものか」
ビッテンフェルト提督の何処か気の抜けたような言葉に彼方此方から笑い声が上がった。アイゼナッハ提督も声を出さずに笑っている。

「そんな事は有りません。イゼルローン要塞を攻略し反乱軍の防衛態勢を崩壊させた。そして反乱軍を引き付け別働隊によるハイネセン攻略を援護した。十分過ぎる程の武勲ですよ。我々は二つに分かれていますが別々な軍ではないのですから」
「……」
「ま、それも全てが終わってから言える事ですけどね。未だ戦いは終わっていない以上何が起こるかわからない。気を引き締めて行きましょう」
エーリッヒが穏やかに窘めると皆
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