撤退と推測
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「…。」
「そう怒るなって。フォルツ。」
次の日。帰ってきたその日は死ぬ様に寝てしまった。起きると俺は酒場のテーブル席で黙ってナッツをボリボリと食べていた。酒も飲みながら。
ニナは怒るなと言ってニヤニヤしているのが無性に腹がたつ。
「…ランに借りを作るなんて。」
「だからごめんって言ったじゃん!あの時のまま炎帝の城館に突っ込んだら死んでたよ?」
まあ、少し失敗だったかな。とニナは珍しく真面目に呟いた。
俺は少しそれが気になった。
「何が失敗だったんだ?」
「ん?ああ、あのアリスって魔術師。なかなか使えそうだったからさ。」
「あんな隠れてばっかりの魔術師どこが…」
使えるんだ。と言おうとした口が止まった。ニナの言おうとしていた事が分かったのだ。
それに気付いたニナは猫の手をピシッと俺に向ける。
「あ、気付いた?そう、あの娘。僕たちの前を先行していたんだよ?」
「…。」
俺たちは数えるのすら億劫なグールの群れを狩ってきた。その軽いとは思えない警備を物ともせず、または警備を相手に対して戦闘を行ったのだ。
…どちらにしても只者ではない。
「ま、どちらにしても留意しておかないとね。
…さて、そろそろ来る頃だ。」
「は?」
そうニナが酒場の時計を見ているといきなり俺たちのテーブルの椅子に座ってくる輩がいた。
「お呼びになったら直ぐに参上!情報屋でーす!」
「…なんの用だ。『鮮血』。」
「『鮮血』?なんのこと?私は超優秀な謎謎な情報屋さんですよ?」
「…。」
そこにいたのはランだった。ただし変装のつもりらしいのだがサングラスとパーカーのフードを被っていた。
こんなバカな身なりをしているがこの世界の自治機関の様な物である『ギルド』のリーダーだ。この辺境の街ラクーアも一応ギルドの管理下であったが突如として現れた『炎帝』のおかげでラクーア支部のギルドは混乱状態…。らしい。
それで急遽リーダーであるランが混乱を止めるためにやってきたみたいだった。
「昨日は助かった。
…一応感謝はしておく。」
「まー。いいよ!私としても『炎帝』を倒してくれると中々嬉しいからね!」
そうランはニコニコ笑顔で答えるとニナに向き直る。
「それでニナ君が頼んでほしい事を調べてきたよ。ラクーア支部のデータベースから色々ね。」
そう言ってランはテーブルの上に資料をばさっと置いた。
どうやら最近の炎帝による行方不明者のデータらしかった。そのデータを見て俺はボソッと。
「…やっぱり女が多いな。それも若い女ばかりだ。」
炎帝による行方不明者はほとんどが若い女性。男もちらほら書いてあるがどれもグール化した可能性が大というメモがほとんどだった。
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