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剣の丘に花は咲く 
第十五章 忘却の夢迷宮
第八話 炎の魔人
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ラナイ。其ノ障害トナル貴様ハ、何ヲ犠牲ニシテモ、ドノヨウナ手ヲ使ッテデモ―――」

 そして手の中にある“火石”に目を落としたワルドは、それを握り直し―――

「殺ス―――ッ!!」
「待っ―――」

 “火石”が爆発した時と同じ―――否、それを上回る不吉な予感に士郎が咄嗟に制止の声を上げるが、それで止まる筈もなく。
 ワルドは“火石”を握った手を、士郎が槍で貫いた胸の穴に埋めた。
 一見すれば自らの心臓を掴むかのような姿。
 時が止まったかのような空白が生じ。



 ピシリ―――と、何か決定的なモノが欠ける音が響き。



 其れは現れた。


 
 目、鼻、口、耳、胸に開いた穴―――ワルドの身体にある穴という穴から吹き出した炎は一つになりその身体を包んでいく。
 炎の勢いは留まる事はなく、上へ上へと上昇し、やがて一つの巨大な炎の竜巻へと姿を変えた。
 火炎の竜巻となったそれの周囲に身を焦がす高熱の風が渦を巻き始める。
 熱波に焼かれた聖堂騎士たちが悲鳴を上げそれぞれの騎獣に乗り込み慌てて船から脱出を始める。
 
「タバサッ!! アンリエッタたちを連れて逃げろッ!!」
「あなたはっ!?」

 どうするのか? その言葉を聞く前に士郎は両手に握る剣を構えた。
 今もなおその勢力を伸ばし続ける炎の竜巻へと。

「これの始末をつけるッ!!」
「始末って……もう」

 アニエスと共にジョゼフとミョズニトニルンを連れシルフィードの下へと向かっていたアンリエッタが肩越しに炎の竜巻へと視線を向ける。その中心にいたと思われる男の姿は炎の壁に遮られ見ることはできない。いや、最早身体が残っているかどうか。この炎の中で、形を保っていられるようなモノがあるはずがない。
 鉄すらも溶かすだろう炎の中心にいて、生きていられるはずがなく、その形すら最早ないだろうと思われた。
 炎の竜巻の熱量が余りにも大きすぎるためか、灰すら残らぬ炎の勢い故に、今すぐ船が燃え尽きるとはいかないようであった。
 それでもそれも時間の問題であり、現に甲板に既に四割方炎に包まれていた。
 今はまだ緩やかに高度を下げているだけの船であるが、何時墜落するかもわからない。 
 シルフィードの背に乗り込んだアンリエッタたちが必死に呼び掛けるが、士郎は動く気配すら見せず炎の竜巻を睨んでいた。
 士郎には予感があった。
 身体は巻き上がる炎に炙られ火を吹きそうなほどに熱い。
 しかし、先程から感じる寒気により、身体の芯は冷え切っていた。
 士郎は確信していた。
 まだ、終わっていない、と。
 そんな中、いくら呼んでも応えない士郎に痺れを切らしたタバサが無理矢理にでも回収しようとシルフィードに命じ―――





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