第十五章 忘却の夢迷宮
第八話 炎の魔人
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が、ない」
腕を掴む士郎に支えられるように力なく立つミョズニトニルンが、眼下で膝をついたまま自分を見上げる主へと視線を向ける。
「なぜ……どうしてですか。あなたは何故、わたしを見てはくれなかったのですか。一度足りとも、あなたはわたしを見てはくれなかった。それでもいいと、それでもいいと思っていました。ですが、やはり、それでもと思ってしまうのは愚かなことでしょうか。なら、このまま終わってしまうのならば。せめてわたしの手で……」
途切れ途切れに自らの思いを告白していたミョズニトニルンは、段々と顔を伏せていき、それにつれ長い髪が顔を隠すように覆い始める。主と自分を隔てるように髪で顔を隠したミョズニトニルンの足元に、一つ、二つと落ちてくるものがあった。
「例え間違っていることだと分かりきっていても、あなたの為ならばと思っておりました。結果どれ程の人が死のうと構わないと。それであなたが救われるのならと―――ですが、結局あなたはわたしとは関係のないところで救われてしまった……なら、わたしの今までは一体何だったのでしょうか……」
士郎に支えられるように立っていたミョズニトニルンの膝が崩れ、遂には甲板の上に蹲ってしまう。
言葉は次第にすすり泣きに変わり、甲板の上に女の嗚咽が響く。
誰も動くことは出来なかった。
声を掛ける事もできず、ミョズニトニルンの小さく押し殺した泣く声が聞こえる中、静かに起き上がる人影があった。
敏感にその気配に気付いた士郎だったが、それの動きの方が速かった。
「―――っガ!?」
とっさの判断でアンリエッタたちを突き飛ばした士郎だったが、そのため回避が一瞬遅れてしまった。
大振りな剣状の杖を腹部に受け、甲板の端にまで吹き飛ばされてしまう。
「ち、ぃ―――まさか、まだ起き上がれるとは」
舷縁に手を掛け立ち上がった士郎が睨む先には、ジョゼフの流した血溜りの上に立つワルドの姿があった。
ワルドはチラリと士郎を見たが、直ぐに顔を元に戻し、足元に転がるソレを手に取った。
「貴様、何をするつもりだ」
両手に干将莫耶を投影した士郎が、警戒を滲ませた声でワルドに問い掛ける。
ワルドが“火石”を手にしたとしても、それを爆発させることはできないと士郎は直感していた。
根拠のないものであるが、間違いはないと士郎は確信があった。
しかし、その確信があっても何故か拭いきれない不安が胸に渦巻いていた。
士郎に顔を向ける事なく、無言で手に持つ“火石”を見つめるワルドの姿に、士郎は言いようのない嫌な予感に襲われていた。
「オレハ……行カネバナラナイ」
“火石”を握り、ワルドは顔を上げた。
「ソレガオレノ義務ダ。其レハ死シタコノ身デアッテモ変ワ
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