第十五章 忘却の夢迷宮
第八話 炎の魔人
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、わたし一人で決めるようなものじゃない」
見上げてくるジョゼフから逃げるように、顔を逸したタバサはそのまま背中を向け、後ろに控えていたシルフィードの下へと歩いていく。
しかし、数歩歩いたところでその足をピタリと止めると、ジョゼフに背中を向けたままタバサは自分に言い聞かせるような小さな声で呟いた。
「……ただ、あなたは終わったと言うけど、わたしには何も終わっていない」
グッと両手で握る手に力を込めたタバサは、歯を噛み締め顔を伏せた。
「わたしは、あなたを許せそうにない」
噛み締めた口から絞り出すようにして吐き出された言葉には、怒りや悲しみの他にも様々な感情が複雑に混ざり合っていた。
息をする音を立てる事も憚られる沈黙が周囲を包む中、ゆっくりと歩き出すタバサ。
しかし、その足はまた止まる事になる。
「なら、何故おれを殺さないのだ」
背中に掛けられたジョゼフの声にタバサは足を止めた。
伏せていた顔を微かに上げると、静かに目を閉じた。
視界が閉ざされ闇が広がる中、浮かぶ人影がある。
遠い、遠い場所。
どれだけ伸ばしても、手が届かないそこに、彼の背中が見える。
「―――教えて上げない」
自然と緩んでいた口元に手を当て、小さく苦笑を浮かべたタバサが、顔を上げ今度こそ歩きだそうとした瞬間であった。
「―――ッグ?!」
押し殺した悲鳴が上がったのは。
タバサとジョゼフのやり取りに気を取られていた全員の視線が一斉にその悲鳴が上がった方へと向けられる。
「っ、離しなさいっ!」
そこには短剣を手に持ったミョズニトニルンの腕を掴む士郎の姿があった。
ミョズニトニルンは必死に振り払おうとするが、腕を掴む士郎の手はびくともしない。
「貴様」
「……あなた、今」
ジョゼフの治療を終えたアンリエッタとその傍に控えていたアニエスがミョズニトニルンに戸惑った声を向ける。
その理由はミョズニトニルンが握る短剣が向けられた先にあった。
その切っ先が士郎や自分、タバサに向けられるのなら分かる。
しかし、よりにもよってそれが向けられた先は己の主である筈のジョゼフであったからだ。
「こそこそと怪しい動きをしていると思えば、随分と物騒な事だ」
ジョゼフとの唐突な決着に皆が気を取られ忘れられていたミョズニトニルンであったが、だからといってそれを見逃すような士郎ではない。
「何故、自分の主を狙う。何か恨みでもあったか」
「―――っ……恨みなんか……」
何とか士郎の手から逃げようと暴れていたミョズニトニルンだったが、どうあっても逃げられないと分かると、ダラリと力を抜いて諦めたように顔を下げた。
「そんなもの……ないわけ
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