第十五章 忘却の夢迷宮
第八話 炎の魔人
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「それは出来ない。おれだけの話ではないからな。お前の父の名誉も関わってしまうからな。しかし、それ以外なら答えよう」
苦笑、と言うよりも自嘲。
そんな感情を口元に浮かばせたジョゼフは、タバサに向き直ると深々と頭を下げた。
「お前には、本当にすまないことをしたと思っている。どれだけ謝罪しようとも、お前は俺を許さないだろう。だが、それでも謝らせてくれ。すまない。本当に迷惑を掛けた。これは、詫びの印にもならないが、受け取ってくれ」
ジョゼフは左手を自身の頭部へと向けると、そこに飾られていた冠を掴みタバサの足元へと置いた。
「……元々お前の父のモノになるはずだったものだ。お前にこそ相応しい。それと、お前の母のことだが、ヴェルサルテイルの礼拝堂に一人のエルフがいる。お前も良く知っているあのエルフだ。その男におれの最後の命令だと言い、薬を調合させろ。それで、お前の母の心は元の通りになる筈だ」
「っ―――答えてっ!」
杖の切っ先を仇へと向け、鋭い声で問い詰める。
その姿は、普段の様子からは考えられない程の苛立たちを見せていた。
「すまないが、やはりそれだけは出来ない。もう、終わったことなのだ。おれには語るべきものは何もない。後は、全てお前の好きにするがいい。この首をはねたければ、今すぐにでもはねるといい……」
ジョゼフはそう言うとタバサに向けて首を差し出した。
眼下に差し出された憎い仇の首。
知らず、父の形見である杖を握る手に力が篭る。
呼吸が荒く、身体に震えが走る。
内から湧き上がる暗い衝動が身体を駆け巡る。
今にも杖を振り下ろし、夢にまで見た仇の首を刎ねてしまいそうだ。
しかし、ぐっ、と唇を噛み締め、タバサは杖を胸元へと引き戻した。
「シャルロットさまっ!」
そんな時であった、ジョゼフを囲む士郎たちに気付いた聖堂騎士たちが駆け寄ってきたのは。
タバサに首を差し出すジョゼフの姿を目にした聖堂騎士たちは直ぐさま状況を把握すると、次々にタバサに声を掛けてきた。タバサを取り囲んだ聖堂騎士たちは、何とかジョゼフの首を刎ねさせようと声を上げるが、タバサは返事どころか視線さえ向ける事なく黙って首を差し出すジョゼフを見下ろしていた。
「…………」
震える口元からゆっくりと息を吐き出したタバサは、ダラリと杖を握った両手を垂らすと空を見上げた。
「もう―――いい」
「―――?」
ポツリとしたその小さな声は、不思議とその場にいた全員の耳へと届いた。
聖堂騎士たちが驚愕の表情を浮かべる中、アンリエッタやアニエスは喜色を浮かべた。
当の本人であるジョゼフは下へと向けていた顔を上げ、タバサの顔を驚きに見張った目で見上げた。
「あなたの処分については
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