第十五章 忘却の夢迷宮
第八話 炎の魔人
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しても駄目なんだ。分かっているんだ。兄さんが王になることを祝福しなければならないことは……でも、駄目なんだ。だって、仕方がないじゃないか。だって、ぼくがどれだけ努力したと思っているんだ。王になるために、一体どれだけ頑張ってきたのか―――なのに、父さんはぼくを王にしてくれない」
「分かっている。大丈夫だ。シャルルがどれだけ頑張ってきたのか知っているから。だから泣くなシャルル。お前が王になることこそ正しい。誰が考えたってそうに決まっている。魔法も、勉強も何もかもお前の方が優れているのだから」
「……兄さん」
「そうだ。そうだとも。お前の方が王に相応しい。だからお前が王になるべきだ。なに、父上の言葉はおれとお前しか聞いておらぬのだから、どうとでもなる。お前が王になり、おれはその臣下となろう。大臣となって、お前を補佐しよう。それがいい。それこそが正しい姿なのだ。父王は死の間際でどうかしていたんだ。だからお前は何も気にするな。王となりこの国を素晴らしい国にしよう」
弟の両肩を抱き、しっかりとその目を見つめながらジョゼフは言う。
どれにも嘘はない。
全て心から思った事を口にした。
それに気付いたのか、シャルルはますます頬を涙で濡らしながら兄を呼ぶ。
「兄さん。兄さん……ごめんよ兄さん。ぼくは本当に欲深いんだ。家臣たちを焚きつけたのもぼくなんだ。裏金さえ使って根回ししたんだ。兄さんはそんなことは一つもしていなかったのに。王さまになりたいからって、ぼくは……」
「気にすることはない。もう、そんな事はどうでもいいんだ。おれとお前は同じだった。それで十分。十分なんだ。それさえわかったら、もう、何もいらない」
知らず、ジョゼフは笑っていた。
心の奥底に溜まっていた淀みが、もっと深い場所から湧き上がってきた何か綺麗なものに吹き飛ばされてしまった。
心は既に爽やかな風が吹き、暖かな思いが満ちている。
それが喜びなのだと、思い出す。
「二人で―――兄弟二人で、この国を、ガリアを素晴らしい国にしよう。おれたち二人なら、きっと出来る。この国だけじゃない。この世界をもっと素晴らしいものにきっとできる」
流れる涙が全てを洗い流す。
積み重なった憎しみを。
空虚な闇を。
全てが暖かなものに包まれていく。
胸が、心が暖かくなる。
今にも歌いだしたいくらいに、踊りだしたいくらいに、心が高揚する。
これは何だろう?
知っている筈だ。
昔は知っていた。
幼いシャルルを連れて遊んだ時に。
『兄さん』と、シャルルが笑いかけてくれた時に。
生まれたばかりのシャルルを見た時に。
感じた思い。
そう、思い出した。
これは、これが―
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