第3話
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剣をしまい、右の手を開いたり閉じたりしてみる。まだ、先程までの感触が抜けきらない。手に何も持っていないことに違和感を感じた。大きく息を吐いて肩の力を抜く。どれだけ気を張っていたのか、息を吐くと、心臓の鼓動が早くなる。そして、そうだ、あいつはどうなった。
黒の前には二体のネぺント、どうやら他は倒し終わったようだ。かなりの数居た気もするが、それを短時間でここまで減らしているあたり、腕前もかなりのものなのだろう。黒の動きは全てが繋がっていた。点ではなく、線として動いていた。自分も、敵も含めて。その戦い方に、見覚えがあった。何故だろう。考えればわかるはずなのに、いまいち頭が働かない。
まもなく黒は、全ての敵を倒し終えた。少年が加勢しようと考えたころには、もう終わっていた。少年はお礼を言おうと思った。肉体的にも精神的にも、目の前の奇妙な格好の人物に助けられたのだから、心から感謝した。恐らく癖なのだろう、手のひらで武器である短剣をくるりくるりと、回転させているその人物に向かって歩を進め、
「……え?」
歩を止めた。目の前の人物の手の動きを見て。その癖に見覚えがあった。よく知っている人物だ。この世界の中なら、誰よりも自分が一番。他にも思い当たることはあった。戦い方に見覚えがあったのも恐らく。よくよく思い出せば、それらしい仕草はいくつかあった気がする。浮かび上がってくる、その人物の名、姿。自分が最も、再会を心待ちにしていた彼。
「……ハヤト?」
気が付けば口が自然と動いていた。
その声を聞いた黒が、短剣を回転させるのをぴたりと止めた。その横顔はフードに覆われていて表情はわからない。なんとなく、驚愕に目を見開いているのではと思った。
あの癖は親友の、ハヤトのものだ。間違いなく。覚えるつもりはなかったが、無意識に覚えていたらしい。彼以前に、人に注目したことが無かったため、仕方ないといえばそうかもしれない。
先程の反応から見ても、目の前の黒はハヤトだろう。そう思った。言いたいことがたくさんあった筈だ。聞きたいことがたくさんあった筈だ。なのに、何も浮かんでこない。何も考えられない。まるで、脳がそれを認識する機能以外の全てを失ったような。
「ハヤト……だよな」
少年は黒にもう一度、今度は殆ど確信を持って尋ねた。黒の肩ががぴくりと跳ねたような気がした。そしてそのフードに覆い隠された顔を、表情が見えないため推測に過ぎないが、おそるおそる少年の方へ向けた。
二人は見つめ合った。お互い動く素振りを見せない。世界が停止したようだった。まるで、自分が死に続けているような、奇妙な感覚に陥る。長い間なのか短い間なのかわからない、一瞬であり永遠であるようなその時間は、唐突に終
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