第3話
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生でも一緒だろう。そもそも、俺が本当に此処に居るなんて、誰にも証明出来ないんだぜ。もしかしたらお前、頭湧いてるかもよ」
もっと他に言い方は無かったのかと思わなくもないが、確かにそうだろう。もし自分の頭が湧いていたら、目に見えているもの全てが不確かなものとなってしまう。目の前の彼の存在も、もしかしたらこの仮想世界というものさえも、妄想の産物かもしれない。更に更に辿ると、そもそも世界に存在するのは自分だけかもしれないのだ。そして、それを証明、そうであると、或いはそうでないと証明できる者は居ない。自分自身でさえ。
「この世界も現実世界も一緒さぁ。自分は目の前の存在のことなど何一つ知らない。そもそも、本当に存在するのかもわからない。目の前にあると思っている存在は、自分の中で作り上げただけの存在かもしれない。俺だってお前だって、唯の妄想かもしれない、偽物かもしれない。あぁ、上等だ。それでもいいじゃないか。俺たちはお互い何も知らない。この世界では何もかも偽物だ。だけどさ、そんな世界で、そんな俺はお前を友達と思ってる」
彼はまっすぐ少年を見つめてそう言った。ああ、なんだか心がすっと軽くなった気がした。彼は俺のことを友達と思ってくれて居たのだ。なら後は、俺が彼を友達と思えば、それはもう誰から見ても友達なのだろうと、そう思った。気がつけば、少年の顔にも笑みがこぼれていた。
「知らないなら、知ればいい。お互いを完全に理解するなんて、別人である限り不可能だ。まずはそれを知るんだ。んで、少しずつ、そう少しずつ相手の事を知っていく。些細な事でもいい。それは経験値になる。そうやってお前で言うところの、レベルを上げていけばいい。別にレベル制限なんて無いし、お互いが友人と思えば友人、恋人と思えばそれは恋人だろ。んでさ、これも俺なりの考え、裏技なんだがな」
彼はそこで一度言葉を切り、一層笑みを深めて、片目を閉じた。その姿が、アバターなのだが、憎らしい程に綺麗であったのでよく覚えている。
「他人を知りたければ、まずは自分を知る。そうして、手に入れた相手の情報と、自分の情報を比べる。相手と自分の違いを知るんだ。名前だってその本質は、他人と自分の区別をつけることだし。そうすれば、一の情報から十――ってぇのは言い過ぎか。だととしても、より多くを知ることができる。より多く、経験値が得られると思うぜ」
「まぁ、あくまで俺の考えだけどな」と最後に付け加える。彼はその後どうやら猛烈に恥ずかしくなったらしく、左手で目の当たりを覆い、右手で赤くなった自分の顔を冷ますべく仰いでいた。そんな姿を眺めていると、だんだんと可笑しくなってきた。腹の底から込み上げてくる笑いを堪えようとせず、少年は盛大に笑った。
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