暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
異国の大地 2
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普段は研究室に籠って作業に没頭している為、極度の人見知りです。居ないものとして……まあ、空気か何かだと思って、存在自体を忘れてやってください」
「…………はあ」

 妙に可愛らしくニコッと笑う男性に、悪意らしき影は見当たらない。
 色彩や髪型、身長以外は男性とまったく同じ装いの男女四人も、よくよく目を凝らして見れば、全員顔が青かったり赤かったりで視線が泳いでいる。

 信徒の中にも、人前でこうした反応をする者が稀に居たから分かるが。
 彼の言葉通り、四人は他人との対話に不慣れらしい。
 空気と考えるには少々無理がある気もするのだけど。

「私はクロスツェル。連れはベゼドラと申します。ただの旅人です」

 丁寧に挨拶をされては、こちらとしても無下にできない。
 どんな状況でも礼儀を欠いてはならないと、反射で頭を下げてしまう。

「旅人。そのわりには軽装に思われますが……なんにせよ、素晴らしい! さぞ多くの生物と触れ合ってこられたのでしょうね! どうです、貴方達が見てきた世界は!? どんな風に見えましたか!? 美しいでしょう!! 海から産まれ、大地が育み、大気に還る! 一切の無駄がない、完璧な仕組み!! 見て聴いて触って舐めて噛んで飲んで感じる、生物達の生物達による壮大な生命組曲!! ああ、私も旅人になりたいッ!! むしろ虫になりたいッッ!!」
「………………」
「はっ! でも、虫になってしまったら研究のしようがないじゃないか!? しかし、生態の詳細を知るには、やはり、なりきるのが一番! 虫になって鳥についばまれる瞬間を体感するのもって、それじゃ私が死んでしまう!? いや、いっそ死の体感をもって他者の肉に変わる仕組みを解びぇんっばぐ」
「!?」

 控えていた筈の四人が、いつの間にかバラバラに散開。
 道端に転がっていた小石や枝や、暗闇でよく分からない生物を。
 マクバレンさんめがけて一斉に投げつけた。

 ガッ ぐしゃ ゴン びちょ と。
 四種類の音に襲われたマクバレンさんは。
 潰されたカエルのような格好で、正面から地面に卒倒する。

 全部、頭部に当たった気がするのは……気のせい、ですよね?

「失礼しました」

 しかも、何事もなかった顔でシュパッと立ち上がった。
 頭の上から何かが滴っている。
 乗っているのは……もしかして、ウミウシ?
 何故、陸地にウミウシ?

 流れに付いて行けず瞬いた目の端で。
 空気と呼ばれた一人が背負っていた黒いバッグに水槽を詰め直している。

 ……重くないのでしょうか……。

「ナンナノ? ゲンダイジン」

 ベゼドラが。
 もう、比喩のしようがない顔で。
 棒読みで。
 半眼で。
 どこでもない場所を見て呟いた。


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