放浪剣士
異端審問官W
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彼女は抵抗する様子もなく、ただ頭をさげたまま。
不気味だった。
思えば、あの時の力を彼女は使っていない。
なにを考えているのだ。
それでも、私は止まることを許されない。
一歩、また一歩と彼女との距離を縮める。
その時だった。
アーシェが堪えていたのを押さえきれないかのように笑いだす。
「異端審問官っていうのは、本当に誰も彼も甘いのね」
アーシェの自由な右腕に纏われる炎の刃。
それを使い、彼女は拘束されていた左腕を何のためらいもなく焼き斬った。
「こんな間抜けばかりじゃ、異端審問官ももう終わりね」
切り口から炎が吹き出し、やがてそれは元の左腕へと形成される。
「魔女いうだけでなく、蜥蜴女とはな」
気持ち悪いものを見るかのようなベルモンドの表情に、アーシェは不気味に笑いかえす。
不思議と私はそんな彼女の姿に安堵しているようだった。
何故。
そんな思考も儘ならないまま、事態は進む。
「さて、じゃぁ二回戦目といきましょうか」
彼女の背中より現れる炎の翼。
あの時の魔術か―――。
化物を一撃で葬り去った恐るべき力。
狙う対象はベルモンドと知りながらも、本能的に身構えてしまう。
「ようやく本気というわけか」
ベルモンドはそう言いながらも、剣も抜かずただ彼女を見据えるのみ。
その翼が出ているだけで周囲の温度は異常なほどはねあがり、まるで皮膚がちりちりと焼かれるようだった。
しばらく見つめ合う二人。
重々しい空気が空間を支配する。
その静寂を破ったのはベルモンドの方だった。
「大した魔術だ。今まで見たこともない未知の魔術…」
懐へと手を伸ばすベルモンド。
それを見た彼女は手をかざし、奴の周りにあのオーブを出現させる。
「そう慌てるな」
ベルモンドが懐から取り出した物に、私は目を疑った。
免罪符。
それは、異端者を普通の人間と見なし討伐対象外とする、唯一の救済手段。
それが使われることなど、七つの教会が設立されてから、数えるほどしかない。
しかも、まさかそれを最優先討伐対象である彼女になど、前代未聞の行動だった。
「これが何かは分かるだろう?欲しくはないか?」
なにを考えている―――。
突きつけられた彼女も怪訝な表情をしていた。
「どういうつもりかしら?」
当然、そのようなものを出されて怪しまない筈はない。
「もちろん無条件ではない。その素晴らしい力を私のために使うのならば、見逃してやる、ということだ」
そういうことか。
奴の本当の目的はそれだったのだ。
私に厄介ごとを押し付けるためではなく、私を陥れるためでもな
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