暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
異国の大地
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ったようだが、反応もしない。
 ……眠っているのか。

 意識を手放す時間が日に日に増えてきた。
 リースの力が残り少ないことの表れだろう。
 急いで帰してあげたいのだけど……
 順調にいかないからと、苛立っても仕方がない。
 慎重に、丁寧に、確実に。
 重大な判断だけは誤らないよう、進む。



 繁る森に両脇を囲まれた、舗装(ほそう)されていない細い道の上。
 前後を数人ずつの集団に塞がれたまま、砂を蹴ってひたすら歩く。

 バラバラな足音。
 獣の遠吠え。
 鳥の羽ばたき。
 四方八方から響く葉ずれの音。
 生き物の気配は、こんな夜中でも絶えず溢れている。

 不思議な感覚だ。
 この場所はリースと出会ったあの森と何も変わらない。
 陸続きなのだから、当然と言えば当然だ。
 もしかしたら、繋がっている一つの森かも知れない。
 ただ、人間が敷いた境を越えただけ。
 人間しか使わない境界線を越えただけなのに。
 緊張を高めなければいけない理不尽さとバカバカしさを痛感する。

『勝手に線引きして陣争いとか、お前らいったい何様のつもりだ?』

 ……そうですね。
 世界は陸で、海で、氷で繋がっている。
 切り分けたのは人間だ。
 他の生物がそれに従う義理は無い。
 一方的な規範の押し付け。
 なんて虚しい意識の境界。
 この世界は誰の物でもなく。
 こんなにもたくさんの命が溢れていて美しいのに。

「悪魔に言われると、より滑稽さが増しますね」
「あ?」
「いえ。なんでもありません」

 浅く笑う自分を見たベゼドラが。
 また何か文句でもあるのかと、不機嫌な顔になった。

 文句はありませんよ。
 ほんの少し、貴方寄りで人間観を見直してみただけです。
 それでも、すべてを否定する気にはなれませんけど。



 朝が近寄ってくる。

 多くの人間や馬車に踏みならされた細い道は、時折曲線を描きながらも、一筋のまま延々と前方に伸び続けていた。
 地図上ではもう少し先に分岐がある筈と、手元で再度確認していると

「あの」
「……はい?」

 後ろを歩いている集団の一人が、突然話しかけてきた。

 額と首筋を露出する短い茶髪と紺色の目を持った、色白で痩せ型の男性。
 年の頃は、十代後半から二十代前半か。
 青いセーターに白いズボンと焦げ茶色のブーツを履いて。
 大人一人は余裕で入れそうな黒いバッグを背負っている。
 視力が弱いのだろうか?
 着用している眼鏡のブリッジを、指先で掛け直した。

「何か御用でしょうか?」

 やり過ごす作戦は失敗した。
 無視して愛想を悪くする手も考えたが。
 職業病とでも言おうか、それはできな
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