3部分:第三章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第三章
まずはスタート位置に着きます。そこから向こう側のお池の端に向かいます。たったそれだけですけれど誰も兎が勝つとは思っていません。
「止めたら?」
「絶対に勝てないわよ」
「そうそう」
皆で兎に言います。
「何があってもね」
「それでもやるの?」
「やるよ」
兎も亀ももうお池の中にいます。兎はそこから皆に答えました。
「負けてもいいからやるよ」
「おかしなことを言うなあ」
「そうよね」
皆は今度は兎の言葉に首を傾げることになりました。
「絶対に勝てないのに」
「それでもやるの?」
「うん、やるよ」
兎の言葉は変わりません。
「絶対にね」
「そこまで言うのならいいけれど」
「それでもどうしてここまで?」
「ちょっとね」
ここでははっきりと答えず皆に対して微笑むだけの兎でした。
「思うところがあってね」
「思うところって?」
「何が?」
「後で言うよ」
やっぱり今は答えないのでした。
「後でね。泳ぎ終わったらね」
「そうなの。泳ぎ終わってからなの」
「それからなんだ」
「そうだよ。全部終わってからね」
兎の言葉はここで亀のそれと同じになりました。けれどやっぱり山の皆は気付きません。亀も今はまっすぐと前を見ているだけです。
「話すからさ」
「わかったわ。じゃあそこまで言うのなら」
「泳ぐといいさ」
皆もここではあえてこれ以上は聞かないのでした。
「まあ頑張ってね」
「じゃあ最後までね」
「うん。それじゃあ」
「兎君、いいかな」
そしてここで亀が兎に顔を向けて尋ねるのでした。
「そろそろだけれど」
「うん、いいよ」
「それじゃあ」
こうして今度は泳ぎの勝負がはじまりました。はじまると皆の予想通り亀は物凄い速さで泳いでいきます。やっぱり泳ぐことにかけては誰も勝てません。
「何か今日は余計に速いかな」
「真剣にやってるしね」
だからこそ普段より余計に速かったです。もうあれよこれよという間に兎を引き離していきます。
それに対して兎はもたもたと泳いでいるだけです。お世辞にも速いとも上手とも全く言えない泳ぎであっぷあっぷと進んでいるだけです。
「それに引き換え兎君は」
「こりゃ勝負なんてものじゃないわよね」
「全く」
その通りでした。かけっこと全く逆でした。兎は何とか少しずつ前に進むだけで亀とはまったく勝負になりません。そうして亀はあっという間にゴールに着いてしまいました。
皆は勝負があったと見てまだ泳いでいる兎に対して言うのでした。
「おい兎君、勝負は終わったよ」
「もうあがらないか?」
「泳がなくていいのよ、もう」
「いや、まだだよ」
けれど兎はここで言うのでした。
「まだだよ、まだ僕はゴールまで着いてないよ」
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ