巻ノ十一 猿飛佐助その二
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「かつて前右府殿が通った」
「あの金ヶ崎の退きの時ですな」
霧隠が応えた。
「あの時ですな」
「あの時は前右府殿も危うかった」
無事に都に着けるかどうかだ、信長にとっては九死に一生を得たと言ってもいいまでの窮地であったのだ。
「しかし逃れることが出来た」
「そしてそれがですな」
「朽木殿のご領地じゃ」
まさにその場こそがというのだ。
「そこに入りな」
「そしてですな」
「そのうえで、ですな」
「都に入り」
「そうして」
「うむ、都も見ようぞ」
こうしたことを話しながらだった、一行は朽木家の領地に入った。だがここで。
ここでだ、伊佐は周りを見回してこう言った。木々は深く獣が出そうな位だ。
「深いですな、木々が」
「うむ、足元に気をつけねばな」
「はい、こうした道はです」
まさにというのだ。
「蝮も多いですから」
「だからじゃ、足元に気をつけてな」
「進みますか」
「蝮に噛まれたらことじゃ」
それこそ命に関わる、蝮のその毒で。
「だからな」
「はい、気をつけて先に進みましょうぞ」
伊佐は落ち着いた声で答えた、しかし。
妙にだ、山道の中はだ。
獣の気配がなかった、それでだった。
その中でだ、霧隠は首を傾げさせて述べた。
「妙ですな、獣の気配がありませぬ」
「そうじゃな、こうした場所は獣が多い筈じゃが」
幸村も答える。
「妙におらぬな」
「誰かおってそれで、でしょうか」
「その者を避けてか」
「そうでは」
「ではわしと同じか」
「それかわしか」
かつて山にいた由利と海野が言って来た。
「獣が避けるまでに気が強い」
「そうなると」
「少なくとも我等程腕が立つ者がここにおるのか」
根津はこう言ってその目を鋭くさせた。
「そうであるか」
「ふむ、ではその者が出て来たらな」
どうするかとだ、清海は笑って述べた。
「一つ手合わせをしてみたいのう」
「そうじゃな、わしも同じ考えじゃ」
望月は清海のその言葉に笑って頷いた。
「そうした者が出て来たなら」
「会いたいのう」
「さて、若し獣が出て来てもな」
穴山は不敵な笑みで背負っている鉄砲に手をやった。
「わしのこの鉄砲が唸るだけじゃ」
「とにかく今は先に進もうぞ」
筧は最も落ち着いている。
「出て来たらその時じゃ」
「そういうことじゃな、ではな」
幸村は頷いてだ、そのうえで自ら先に進み都に向かっていた。その彼等の上から不意に気配がした。皆その気配にすぐに気付き。
気配がした木の上に顔をやってだ、こう問うた。
「そこにおるな」
「何者じゃ」
「おっ、わしの気配に気付いたか」
ここで楽しそうな声がした。
「これは中々」
「出て来るのじゃ」
清海はその声
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