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逆さの砂時計
それぞれの道
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スは賢いからな。一度覚えたら忘れないよなあ」
「努力はします。あの、師範」
「ん?」
「…………いえ」

 私の肩に腕を回す師範の瞳を覗き。
 喉から溢れ落ちそうになった言葉を、飲み込む。

「すみません。なんでもありません」
「そうか」

 ぽんぽんと、私の頭を叩いて離れる師範に苦笑う。

 見透かされてるなあ……。

「よーし。今日はフィレスが脱皮した記念日だ。この俺が、自慢の手料理を振る舞ってやろう!」
「その表現は、私が爬虫類(はちゅうるい)になったみたいで嫌です、師範」
「全力でやめて。貴方、力を入れるほど失敗するじゃない」
「なにおう!? 俺の本気を侮ってるな!?」
「その本気が問題なんだってば」

 二人は楽しそうに話しながら厨房へ向かった。

 神父の仕事をしていた師範はともかく、アーレストさんは食事や入浴の時以外、不眠不休でずっと私に付き合ってくれていたのだが。
 何事もなかった様子で明朗快活に動き回ってるのがすごい。
 どれだけ線が細く見えても、男性なのだな。やっぱり。

「私も、一から鍛え直さなくては」

 師範。
 私は、貴方が誇れる弟子でありたい。
 だから、今よりもっとずっと強く、自分を磨きます。
 貴方に頼ろうとする弱い私は、今日、ここに置いて行く。

「師範! 私もお手伝いします!」

 二人を追って、私も厨房に向かった。
 三日三晩の恩義は、きっちりお返ししなくては。



「では、お世話になりました」
「おう。行ってこい!」

 一日が明けて。
 フィレスは、教会の一室から旅を始める。

「貴女に女神アリアの祝福が舞い降りますように」
「ありがとうございます、アーレストさん」

 尊敬する師と、人間とは思えない美しさで不思議なことをこなした神父の見送りを受けながら。
 羽根を握り締めた彼女は、忽然と姿を消した。

「なんだ?」

 怪訝な金色の虹彩でじっと睨まれながら、ソレスタはへらっと笑う。

「毎日毎日彼女を話題に持ち上げて気に掛けていたわりに、付いて行くとは言わなかったのね。貴方の面倒を見てる人間としては助かるけど」
「俺は普通の人間だからなあ。フィレスが相手ならともかく、謎の現象には手も足も出せん。生きて知りたい、やりたいことが山ほどあるし、まだまだ死にたくないのさ。それに」
「それに?」
「自分の手で滅茶苦茶に壊したいくらい愛する女にツライ旅をさせるのは、男の務めだろ?」

 とんでもない発言にギョッとする。
 女神に仕える聖職者が、神聖な教会で何を言い出すのか。

「アンタ、屈折しまくってるわね」
「そうか? 咲きかけのつぼみに水と肥料をやろうってだけの話だぞ」
「やめてよ? 
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