エピ-ミュトス
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に、声色に、何故か、なんだかチェルノーゼムのような懐かしさを感じた。
そっと耳元で囁く戯れの声。
鼓膜に触れ耳小骨を震わせ蝸牛の中のリンパ液を羊水のように揺らし頭の奥底にじっとりと浸透していく柔らかい性/聖の安らい―――。
でもそ、れのな。ん。な、のかそ、のなつか、し。さ、がし。ょう、たい、て、なん、なのか。わ、から、なく、をそれで、もな、にかな、とか、んが、えよ、う、がす・る・け、れ、ど、か、んが、えよ。うとするた、び、はあた、ま、が、なか・でう。じ、む、しに。け、っき、ょくか、んがえ、るの。をや、めたか、らの……たうちま。わ? ――――――る……[]、
。
なぁに、お母さん。優しい笑みの表情を指示して、小さな少女がオカリナの音色みたいな声で言う。
娘を見返した。蒼く紅い瞳が?く黒い光焉を呑込む。
今、なんて言ったの?
少女の甘酸っぱい情欲的なさくらんぼのくちびるが、微かに動いた。
不思議そうに子どもが見上げる。
今、わたしは、何か、言ったのだろうか。
自分の唇に人差し指を当てて、どこか果敢無い真っ白な肌の少女の顔を見ながら、しばしもの思いに沈んでみる。
うーん。うーん。
よく、わからない。確かに唇が動いたような気がしたが、くちびるが何を発したのか、その言葉がどんな意味を持っていたのか、確かめる術は無かった。物象化されたフェノメナルなはずのもの、風に乗って消えてしまった言葉など、ものとなってしまった言葉など、どうしようも無かった。
頭上には青い蝋を薄く伸ばしたような蒼穹が広がり、煌めく心地よい光が彼女を照らす。真上で閃く陽光はあまりに強くて、照らしていくもの全てを白く、白く、白く、焼けるように白く、染め上げていく。黒く、黒く、黒く、全ての牛を塗りつぶしていくように染め上げていく。
かつて黄金であったと憧憬される無が、痕跡が現前していた。
全てが純白に翻訳されていく。真ん丸の太陽から降り注ぐ光は酷くとげとげしていて、全てのものの境界線を溶かしていくようだ。
平衡感覚が無い。手にふれていないとたおれてしまいそうだ。
方向感覚が無い。手にふれていないとどっちがどっちだかわからなくなりそうだ。
記憶感覚が無い。手にふれていないと1びょうまえのことがわからなくなりそうだ。
未来感覚が無い。手にふれていないとまえにすすむことすらできなくなりそうだ。
手から、樹を離した。ぽろぽろと肌が崩れ落ちていく。
影のひとつも見当たらないほどに溟く、沈黙が澄み切った淀んだ視界の中、何かの朧な輪郭が浮かび上がっていく。
化石になった恐竜のたまごみたいだ。殻はもう雨風でぼろになり、ざらざらした摩擦的な粗い手触りの外殻で、既に中身は死んでいる。いや、死んでいない
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