91話
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……に耳を傾けた。
もっとその詩を聴けたら、どんなに嬉しいんだろうか!
だが裁判官はもう―――の依頼で目を覚ましてしまった。
法廷では詩作ではなしに思索が大きな顔をする。
―――確信する。
再びこの詩をうたう大いなる時間が訪うてくる。
だから、今は―――。
未だ幼い幻獣、黒いミルクを飲む時。
その、
時、
だ。
※
プルート・シュティルナーは、眼前に広がる光景に放心していた。
マクスウェルに指定された座標に到着して数十分。何の音も無く、ただ己だけが存在しているような孤独の中、プルートはディスプレイに映るデータは既に頭の中に入っていた。
事が終わった後は、ニューエドワーズの第666特務戦技教導試験隊のフェニクス・カルナップの元に向かえ―――と、だけ。マクスウェルとエイリィが後から着くとかなんとかという情報は欠片も無く、そして、この周囲の沈黙をしてプルート・シュティルナーは無残にも実情を把握していた。
だからだろう。真黒の世界に広がる、その極彩色の帯にわけも無く見惚れていた。
ヘルメットのバイザーを上げる。息を吸い込めば、少し薄くなり始めた酸素が肺に吸い込まれていく。
《ドーベン・ウルフ》のスラスターを焚き、その極彩色へと向かわせた。
ヘルメットが邪魔だった。だから、ヘルメットを脱いで、ヘアカバーを脱ぎ捨てた。
胸元を開ける。息を吸い込んで、プルートは碌に呼吸が出来ないことに気づいた。
息を吸い込んでもすぐ肺が縮んで酸素を押し出す。ごちゃごちゃしたものと共に、自分の声から、嗚咽が漏れていた。
視界が霞む。頬を冷たい露が垂れる。いくら目もとを拭っても、横溢する熱く冷たい夕暮れの露が頬を伝い、鼻を濡らし、法令線を潤わせた。自分の顔の穴から流れる液体のどれがどれなのかなどという判別はとうに意味を成さず、何もかもが差異化する以前の純粋持続の哭き声がただ、何かの水分となって下界に嘆くばかりだった。
まるでゼリーみたいだった。蒼い燐光と虹色の燐光が溶けあって、海の奥底の砂粒みたいにきらきらしていた。
コクピットの中にまで溢れてくる淡い光の氾濫。手を伸ばせばすぐそこなのに、プルート・シュティルナーには触れられそうも無い。
酷い世界。こんなにも暖かくて、そして誰も触れることを許されない世界。
プルート・シュティルナーはもう、9歳の女の子でしかなかった。無力に、無抵抗に声を上げるだけの純粋で愚かなものでしかなかった。
遥か向こう、隔絶の庭園の先に、プルート・シュティルナーは見た。
虹色の世界の先、誰かが漂っていた。灰色の身体を永久に投げ出した誰か。微かに開いた瞳はどこを見るでもなく、虚ろに志向を拡散させていた。リゾームと化した思惟は世界を塗りつぶし
プルート・シュティル
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