89話
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できた。
蒼を基調とした《リゼル》が背中からビームサーベルで貫かれている。
その、先。
《リゼル》を貫通した蒼白の粒子束が、《デルタカイ》の胴体を串刺しにしていた。
丁度管制ユニットにずぶりとビームサーベルが突き刺さっている。たとえガンダリウム合金の装甲といっても、摂氏数万度に達するビームの前では紙切れも同然だった。あれでは、爪の先一欠けらとてこの世に何も留めてはいまい。ガスパール・コクトーという男は、刹那の輝きの中で永遠に喪失したのだ。最早その言葉を聞くことは出来ず、彼と言う男の声は永劫の果てに消えていった。
終わった。ただ、その言葉だけが攸人の頭の中一面に広がっていく。
大出力で発振されていたビームサーベルは未だに高熱の粒子を撒き散らして、眩く閃きを放つ。《デルタカイ》の蒼い双眸が、どことも知れないはるか遠くの虚空を眺めて、侘しく煌めいていた。
(死を持って罪を贖おうと―――そういう心積もりだったわけか)
フェニクスの声が耳朶を打つ。それは誰に向けた言葉であったか―――突き刺していたビームサーベルを引き抜き、2機のMSが遺骸となって漂い始める。灰色の《ゼータプラス》の焦点はどこにも無かった。
(貴様は軍人だ。貴様と言う個人が存在するのと同様の次元で軍人だ。であればその咎の負い方は法によって決定されなければならない―――死を持って罪を償うなどというのは単なる逃避だ。くだらんことをするな)
音声通信だけの声が心臓を貫く。その声はどこか憤懣に、やるせなさに満たされていた。
「―――了解」
声を絞り出す。
攸人はつい、苦い笑みを浮かべ、虚脱した。シートに身を預け、操縦桿を握る力を緩める。視線をあげれば、満天の宇宙に敷き詰められた星辰の光が、攸人を見下ろしていた。
「あの、隊長」
(なんだ?)
「やっぱりさっきの強制脱出って、隊長が?」
(あぁ、あれか)フェニクスの顔は見えない。
(そうだ。元から貴様の機体は私のコントロール下にある。遠隔操作までは出来ないが、ある程度機体の制御に介入できる。お前がIFFで味方認証されている機体目掛けてトリガーを引いた瞬間に、貴様の機体が自爆するようにも設定してある)
さも平然とそれを口にした。
先ほどの一瞬がフラッシュバックする―――クレイの《ガンダムMk-X》目掛けてビームライフルの照準を重ねたあの瞬間に、神裂攸人は跡形も無く爆殺されていた。もちろんその気は無かったけれど、背中に冷たい物を感じた。
「やっぱり、知っていたんですか? 俺が内通者だと」
(当然だ。クセノフォンとオーウェンは、そもそもそういう仕事のために666にいる)
《ゼータプラス》の視線が攸人を捉える。
「では何故俺を確保しなかったんです? そうすればさっきみたいな面倒なことは―――」
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