89話
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下ろした。
ロングビームサーベルの切っ先が《デルタカイ》のビームサーベルを接触する。防眩フィルター越しに視界を切り裂く閃光が炸裂し、乱舞したスパークが視神経を無理やりに励起させる。
拮抗など無い。高々付属的機能でしかないロングビームサーベルの出力など、《デルタカイ》が出力限界を解除したサーベルに敵うはずもない。力場同士が干渉し合う最中に《デルタカイ》が無理やりにビームサーベルをねじ込む。ビームライフルの銃口は一瞬で蒸発し、メガ粒子の光はライフルを両断し、《リゼル》の右腕を一太刀の元に切り落とした。
数万度の刃が《リゼル》の脇腹を溶解させる。
溶けた金属合金は真っ赤でどろどろだった。まるで、血だ。
そうだ。それが贖い。己という存在の罪を贖うには流血をもってするしか、ない。
ダメージコントロールが五月蠅いくらいに甲高い音を鳴らし、ディスプレイ上に表示される機体のステータスは真っ赤に染まる。
全天周囲モニターの右手側に《デルタカイ》の右腕がある。その手が返す刃を志向し、ビームサーベルの一撃が3秒後に自分の身体を蒸発させる。
ビームサーベルが唸る。あと2秒、それより早く―――。
刃が両断するより早く、《リゼル》の左腕が伸びた。5指のマニュピレーターが《デルタカイ》の肘の部分を握りこむ。機体同士の接触でコクピットが揺れ、頭が揺さぶられた。
ビームサーベルの刃はすぐそこにあった。脇腹すれすれで煮えたぎる光の剣が《リゼル》の生傷を抉っていく。ばちん、という劈くような音と共に右手側の全天周囲モニターがショートし、宇宙よりもずっと無機質な黒塗りが視界に広がっていく―――。
「―――……! 隊長、今だ! 《リゼル》ごとこいつを叩き切れ!」
(ユート!?)
「早く! でないと―――」
ディスプレイに表示された《リゼル》の左腕が悲鳴を挙げる。高々MSの腕を掴んでいるだけというのに、その力を抑え込むだけで機体のフレームが拉げていく。
「《リゼル》じゃこいつを抑えてられない! だから!」
ディスプレイ上の通信ウィンドウに苦悶を浮かべたフェニクスの顔が映る。ついで別枠でウィンドウが立ち上がり、《リゼル》の背後の映像―――ビームサーベルを刺突するように構えた灰色の《ゼータプラス》の姿が投影された。
《ゼータプラス》がスラスターの翼を広げる。あとはその刃が《リゼル》ごと《デルタカイ》を貫いて―――。
―――何か。
声―――が聞こえた。
鼓膜に微かに触れる声。熱に浮かされたように、呪文を口にするように紡がれていく声。
その声に含まれた文字列が頭の中で閃く。
単なる文字列などではない。単なる象徴の羅列などではない。より重く、確かな質感を持った一つの言葉―――名前。攸人が聞いたことがある、誰かの名前が頭の中に反響する。
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