88話
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を考えたところで一体何があると言うのだ? であれば、もう、何か苦痛を得てまで無駄で無価値で無-意味なことをする必要などないのだ。
もう。己を手離しかけ、て―――。
――――吹きすさぶ鋼の風の、向こう。
自己が指先からもうどこかへ―――
――――鋼の風が頭蓋を砕き、中身が零れていく身体が綺麗に裂かれていく。
存在を喪失し―――。
―――白い、少女の姿を観た。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あ。
白い髪を夢のように広げた少女の姿。
大地に蹲った少女の顔は良く見えなかった―――けれど。
その、小さな肩が微かに震えていた。
―――行かなければ。
―――何のために戦うのか。己が崩壊してもいいと思いながら、壊れてもいいと思いながら。
ずっと彼女一人に背負わせてきた。何も知らず、暢気に過ごしていた自分は彼女が負っている責苦を気づくことすらなく、ただ己を抱いてくれる彼女の母親に甘えていた。
なんという魯鈍。これで彼女を愛していると思っていたのだから、お笑いにも程がある。
罪の贖い。そんな言葉は使いたくない。
ニュータイプとて所詮は人の延長に過ぎない。たとえニュータイプになったところで、根本的に人を理解することなんでできない。たとえ誰かの記憶を見ても、誰かの感情を感じても、それは己というフィルター越しに誰かの経験を眺める行為以上の物ではない。そんなことは誰かを理解したことではない。それは、誰かの生の経験を知ったようなふりをするグロテスクな行為だ。ニュータイプとは、だから本来的にグロテスクな存在だ。
だからクレイは彼女の感じた情念を、責苦を、罪の贖いなんて言葉で塗りつぶすわけにはいかない。いや、もはやそれを情念やら責苦などという貨幣的で孔を穿たれた言語成るもので表現しようとすること自体が野蛮極まりない愚行であり、であるからこそもはやそれは非[-]存[-]在でしかない彼女の皮奥について恐らく語ることは、存在への指し示しとしての空疎な幻想の言語を訳知り顔で操るだけのことでしかない―――。
―――己にできることは、ただ、一つ。
奥底に浸透する何ものか、裂け目の深淵から微かに囁いたエクリチュールに、確かに、ふれたこの身が為すべきことがなんであるか。
―――指先が動いた。ぴくりとも動かなかった肉体が軋みを上げる。
―――少しだけ、口が動いた。
―――足を一歩、前へ。先へ。驚くほど軽やかに、確かな足取りでもってその身体が漂逸する。
吹き荒れる風に身体を裂かれながら、それでも足を前へ。
エレア。そのたった一言の名前を全身全霊で声に出す。何回も、何十回も、何百回も、何千回も何万回も、仮に永劫に世界が空転しようと
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