88話
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に洗濯されて真っ白真っ白。
風が己の存在を吹き飛ばしてく。己が積み上げたもの、己の構成体を吹き飛ばし、世界を綺麗な吹きっさらしにし、荒れ狂う烈風が大地を削り取っていく。舞い上がった大地の灰色の肉片は空の果てで散り散りになっていく。
罅割れた視界が崩壊する。こんなの耐えられるわけがない。1秒だって耐えられない。人間の知覚はそもそも『こんなもの』に耐えられるようにできていない。人間の認識はそもそも限定的で、断片的なものしか知覚できない。人間には紫外線が見えないし赤外線が見えない。放射線だってあるのかないのかわからないし、波数が極めて低い音も極めて高い音も聞こえない。指先の感覚は一定以上きめ細かになれば知覚不能で、微かな味の違いだって区別できまい。畢竟、人間は敢えて生に不要なものを知覚せずとも好いように認識を構築し、スキーマを生成していくのである。それ以上のものは認識能力的に認識する必要が無く、そして認識させられても困るのだ。
全神経が無理やりに接合され、強引に感覚域が押し広げられ、それと同時に逆ベクトルに運動する差延が統一体の原なるもの、横溢のエクリチュールあるいはエスへと還っていく、忘却された畑の畝、そうしてつまりは存在へと還っていく。世界を包む全ての情報、否、送り届けられる運命が濁流となって頭の中に殺到し、溢れた存在漆黒の明るい存在が身体中を犯して破壊して切って嗣ぎはぎされては再び破壊されていく。
痛みが無い。そんな人間的な感情を持っていられない。痛い、という感情の叙述そのものが人間の文化的行為である以上そのように『これあるいはそれ、むしろそれ』の呻きなど表現しようも無い。
あるのはただ無への立会。自己存在が徹底的に焼却され、収奪された/主体が周囲の外環境と同一化させられる。
身体を動かせ。指を少し曲げるだけでいい。そうすれば、この風の向こうへ行ける。
だが動かない。瞬き一つ行えない。ぴくりとも身体を動かすことが出来ない。
脳の一部が破裂する。噴水みたいに中身が噴き出し、頭蓋の中に流出していく。
意識が断線する。視界が細切れになっていく。己が粗びき肉になっていく。
人間一人の決意とか覚悟なんてあまりに弱くてちっぽけで、耐えられるなんて幻想を抱いていたことのなんて愚劣なことなんだと思わされる。決意とはそも衝動的行為に過ぎず、そのようなものは存在の前では何の役にも立ちはしない。
自己を保っていることが億劫でしょうがない。自己を保とうとすればするだけ吹き付ける絶望が突き刺さり、血ではない何かが流れていく。術はそれに抗わずに身を晒せばいい。そうすれば己もこの風と一つになって苦痛を感じなくなる。さっさと、手離して、何も考えないで済むようになりたい。
もう何も考えなければいい。最早何を考えていたかすらもわからないのに、何か
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