87話
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ていた能力のお蔭で、敵より早く初撃を叩き込める。
隊長機を後方において前衛に2機。ごく普通の陣形だ。
初撃で隊長機を潰す。それと同時にインコムを射出して周囲に展開。本体を囮にすることで本命のインコム一撃で仕留める。仕留めきれない場合は格闘戦で撃ち滅ぼす。
決断から行動へは迅速。機体はロックオンすらしていないからマニュアルで銃身を調整し、己の知覚だけで敵をサイトに入れる。
出力は最大へ。速度は遅く、攻撃の意思はただ破壊だけを専心する。
即座にトリガーを引く。黒々した銃口から大出力の光が濁流となって漆黒の世界を埋め尽くし、亜光速の速度でもって《リックディアス》めがけて押し寄せる。
ロックオンも何もない砲撃を回避する術などない。光の中に飲み込まれていった《リックディアス》は、爆破すら起こさずクレイの知覚から消失していった。
何かが心の内で蠢く。それから目を逸らしてはならないと知りながら、それでも今は何も語らずに、口を堅く閉じてその感情を飲み下す。
スロットルを開放し、フットペダルを踏み込む。それと同時に背部のインコムシステムを起動。2機の周囲に展開するように、されど自機の後方へと置き去りにしてさらに加速する。
機体のセンサーが捉える。
《リックディアス》が身動ぎする―――明らかに動きが固い。教科書通りというわけでもない―――というより教科書通りにやろうと懸命になっている風と言った方がいい。
誰かの顔を思い出す。つい今日のこと―――目の前で弾けた、名前も知らない誰かの頭。
ぎちぎちと身体が軋みを挙げる。操縦桿を握る手に込める力がどこかへ行ってしまいそうになるのを繋ぎとめ、全神経を敵に向ける。
己の業、そんな言葉では終わらせられない。それでも今は己の為すべきことを為さねば、それと共に在ることすら出来ない。
だから。
だから、操縦桿越しに左腕に構えるハルバードを握り直し、バックパックのビームキャノンの照準をクレイから見て右の《リックディアス》に重ね合わせる。
右側に迂回するように軌跡をなぞる。当然左翼に展開する《リックディアス》がそうはさせまいと前に出ながら挟み込むように相対距離を詰める。
だがそれで終わりだ。相対距離を一息に詰めるが故に、敵機はインコムの牙の内側に―――。
後はトリガーを引くだけ。そうすれば、この2機も瞬時に鉄くずに変わろう。
そうして操縦桿のスイッチに重ねた指に力を込めようとした時だった。
視界の中で何かが光った、と思うのと、クレイの身体を貫く異様な圧が爆発したのは同時だった。まるで壁が押し寄せてきて身体にぶち当たるような、それでいて蚊の針のように鋭い槍で頭から股座までを一直線に貫かれるような冷然とした悪寒。
躱せ、と頭が判断するより早く身体が躍動した。
スラスタ
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