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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
85話
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とで不安定だった能力が安定することが判明した。だから彼女を管理している連中は貴様と共に居る時間を長くするために、意図的に貴様への好意を持つように調整した―――)
「あ――――?」
 フラッシュバックする彼女の顔。
 自分と唇を躱しながら、恥ずかしげな笑みを浮かべた少女の顔。
 雨に打たれながら、はしゃいでいた少女の顔。
 不安げな顔をしながら、自分への愛を呟いた少女の顔。
 薄暗い部屋の中、消え入りそうな声で呟いた少女の顔。
 闇夜の中、自分を受け入れてくれた少女の、顔―――。
(貴様への愛など単なる作り物だ。あの女はただ誰かに貴様を愛しているように思わされて、それにしたがって動いていただけの物だ。マシーンと変わらない。そこいらの獣以下の存在だ。そんなものに、どうして本物の情愛が宿るというのだ?)
 身体の中で何かが膨れ上がる。
 ずっと身体の内に押し込められてきた誰かが堤防を破壊しようと波となって押し寄せてくる。
(貴様の生など、余すことなく誰かの掌の上で踊らされていただけにすぎないのだよ。お前の生まれも、育ちも、努力も、満足も、悦楽も、愛も! 全て誰かの作り物を、そうとも知らずにお前は受け取っていただけのことだ。お前にあるのはただの借り物の人生、人形としての在り方だけだ!)
 ビームライフルを腰に懸架し、白い『ガンダム』がビームサーベルを抜刀する。
 ライフルの付属品でしかないバヨネットのそれとは比較にもならない大出力の光刃が迸り、力場に固定しきれないメガ粒子の飛沫が飛び散り己の身体を焼いていく。
 己を業火で焼き、想像を絶する苦痛の中、なお歩みを止めない殉教者。磔にされ火炙りにされてもなお、己の神への帰依の格率に絶対的な確信を抱き、この汚濁しきった現世に神の救済を求める聖教徒のようだった。
 蒼い宇宙の中、なおもって蒼く哀しい瞳の閃きを漂わせる白亜の神話が満身創痍の体躯で刃を振り上げる。
 真っ赤に染まった視界が罅割れる。
 何を意思しても身体はぴくりとも動かない。力を入れよう、と思う瞬間に、身体のどこかが濡れた声を上げる。
 何のために、と。お前は何のために戦うのか―――生きるのか、意思を抱くのか、と。
 お前がこれ以上生命活動を維持し続けることに意味はあるのか、と。
 震えた囁きが鼓膜を抜け、聴覚神経をすり抜けて、頭蓋の中で静かに確かに木霊する。
 クレイ・ハイデガーがこれ以上この世界の内に存在している意味など、ミリほども喪い。
 裂帛の気勢とともに振り下ろされるビームサーベル。その軌道があまりに遅く見えながら、クレイはぴくりとも意思することはせず―――。
 ハルバードの穂先を繰り出した。
 光の刃同士が接触する。力場が干渉し、スパーク光が炸裂する。弾けた粒子が躍り、真っ赤な視界の中を明滅する。
 
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