85話
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た地獄だ、目の前で誰かが毀れていくのにどうすることもできない人間たちが眼にした地獄だ。どこかの破壊された都市、崩れたビルに押し潰されていく人間たち。
誰かが斃れる。ありふれた地獄だ、自らの無力に身を焼きそうになって、その度に立ち上がってもあるのはただ無限に広がる荒野という名の地獄、独りの男の網膜に刻まれた平凡な地獄だ。暗く狭い部屋、囚人服を着た男が地面に転がり、口からだらしなく唾液を垂らしながら譫言を呟き続ける―――。
誰かの記憶がフラッシュバックするたびに、全身に形容しがたい底抜けの虚脱と世界への絶望が浸潤していく。
己は何のために在ったのか、と。
己は何のために、己を磨き上げたのか。
己の命は、ただ誰かのためにあったのではないのか―――。
目の前の男の記憶が、男の世界の痕跡から覗く大地の悲鳴が足元から這い上がってくる。足を掴み、膝を握り、股座から覗いた昏い顔。
目を瞑りたくても瞑れない。その泥人形のような何かが、目を瞑るという行為の残虐さを告発する。
泥人形が腕を伸ばす。長く伸びた手が咽喉元に触れ、接地面からじわりと熱く冷たい思惟が肌を溶かしていく―――。
クレイは、脊髄が砕けるような衝撃で意識を取り戻した。
ずきりと胸に電流が走る。咳と同時に、咽喉の奥底から赤い錬鉄の液が飛び散る。
赤く染まった視界の先、白い『ガンダム』の蒼い双眸が幽らめく。
体当たりを食らったらしい、となんとなく思い出した。
さっき、何かを見た気がする。誰かの内側に飲み込まれた気がする。だがそれが何だったのか、さっぱり思い出せない。
記憶が欠損する、と確か目の前の『ガンダム』のパイロットが言っていた気がする。
確かに先ほど見たばかりの記憶が維持できていない。それどころか、流水を捉えようとする掌を嘲笑うかのように手を擽り、指の隙間を潜り抜けていくように、もっと色々なものが毀れていく気がする―――。
「―――エレア……」
口から誰かの名前が零れる。
あどけない銀髪の少女の姿が確かな輪郭を持ち、視界の中で揺れることなく揺蕩う。
まだ、彼女の名前を憶えている。彼女の姿を覚えている。彼女の身体を覚えている―――。
(まだあの人形のことを覚えていたか)大仰に抑揚をつけた声は、多分に嘲りを含んだ声だった。
(人形は人形同士、お遊戯を演じるのが似合いだな)
何を、言っているのだろう?
己の内側に湧き上がる疑問―――そして、己の根底に淀んでいた別な疑問が首を擡げる。
もう知っている。目の前の『ガンダム』のパイロットが口にするまでも無く、己はその疑問とその答えを、もう―――。
(エレア・フランドールが貴様に好意を寄せていたのは単にそう思うように調整されていただけの話だ。エレア・フランドールは貴様と共に在るこ
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