85話
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代償に生身の人間を数秒で廃人にするほどのものだ。仮に耐えられても一部感覚の異様な先鋭化とその反動に生じる感覚の鈍化、幻覚症状、各欲求の過剰な昂進、一部記憶の喪失、全身の疼痛が生じる―――)
ざわざわと肌が粟立つ。蛞蝓が這って行ったかのような、異様な悪寒。
(いい加減に認めたらどうだ? なぁ、クレイ・ハイデガー!)
「―――喋るなぁ!」
咽喉元で爆発した声は、もう単なる子どもの悲鳴でしかなかった。クレイ機体ごと体当たりをけしかけようとするのに合わせて、白い『ガンダム』が身体を仰け反らせる。ハルバードの切っ先が真空を裂き、不意に虚脱する感覚が身体を突く。
ビームライフルの先端に装備されたバヨネット型のビームサーベルが奔る。ほぼ密着した体勢で放たれた一撃はガンダリウムβコンポジットの装甲を濡らした紙に指を刺すように突き破り、人間の身体など容易く焼き尽くすクレイの身体を物的存在にまで分解させていき―――。
ざくりと頭の中で何かが生えた。神経がそのまま束になって脳髄を突き破り、体外まで這い出した知覚野が網膜の内側へと映像を逆流させていく。
全天周囲モニターの向こうで閃くメガ粒子の光が視界全てを埋め尽くしていく。
己に訪れる可能性の端末を惹起させ、クレイはその刃がコクピットを焼く寸前に、白い『ガンダム』の人間でいうところの腹部目掛けて右主脚の一撃を叩き込む。悟った白い『ガンダム』が回避挙動を取ったが、遅い反応だった。数トンほどもある金属塊が直撃し、衝撃で仰け反ったがら空きの胴体目掛けてクレイはハルバードを振り上げ、腰から両断するように薙ぎ払った。
大出力の光刃が白い装甲を焼き尽くす寸前に、銃剣の刃が斧の一閃を受け止める。出力で押され、白い『ガンダム』の腹部の装甲が赤く捲れ上がり、赤化した金属がどろりと血液のように白い装甲を伝っていく―――。
(そうだ、その力だ! 相手の感応波をも己の情報として演算しながら敵に誤認情報を認識させる対ニュータイプへのアクティヴ・ジャマー能力! サイコ・インテグラルへと最適化しているわけだ!)
男の嗤う声は調子のハズれた目覚まし時計のようにがちゃがちゃとした音にしか聞こえなかった。音を鳴らすたびに、ぎぃぎぃ軋む不協和と共に己の振動で己の部品が零れ落ちていく。苦痛に悶えながら、それでも音を鳴らし続ける虚しいだけの錆びれた赤塗りのアナログな目覚まし時計―――。
視神経が無理やり励起させられる。網膜が一斉に痙攣し、狂ったように点滅する。
―――知らない場所だった。
灰色に染まった世界がどこなのか、地球の大地なのかそれともコロニーの地なのか。
誰かが斃れる。ありふれた地獄だ、兵士たちが眼にした地獄だ。まるで朽ちた木が音を立てて倒壊していくように、大地へと堕ちていく。
誰かが斃れる。ありふれ
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