85話
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男の声が鼓膜を透過する。気を抜けば意識が身体ごと融解し脳みそが勝手に膨張して頭蓋の中で圧潰してしまいそうなほどに最早何が何なのかの区別すらつかないというのに、男の重く軽いが直接聴覚神経に突き刺さってくる―――。
(昔ある少年がいた。少年にはある程度ニュータイプの素養があるとして、ジオンのサイコミュ研究所であるフラナガン機関支部で実験体として研究されていたようだな。ただ、能力が水準以下だったその実験体は破棄される予定だったようだが、運よく地球連邦軍が当施設を強襲したために難を免れた被検体は戦後、戦災孤児として連邦軍の女性士官に引き取らることになった。ジオンに比べてニュータイプ研究が大幅に遅れていた連邦軍にとっては、たとえニュータイプ能力に素養が無く後天的な強化の精度が悪かろうが、貴重なサンプルであることに変わりは無かったからな。破棄するなどあり得なかった。ただ、その少年が実験を受けていた施設で多くの完成個体が入手できた都合、わざわざ劣化個体を使用するまでもないと判断されたその少年は、将来的にニュータイプ研究がおこなわれる際に実験体が手に入らない場合に使用する代替物として、その女性士官の下で育成されることになった。連邦政府はエレメンタリースクールからハイスクールまでの成績、士官学校入学時のテストの成績を改竄し、その少年が将来的に自発的にMSパイロットになるように仕向け、そして事実その少年は士官学校に入学。そして、丁度その少年が士官学校を卒業する時期になり、とあるサイコミュ試験部隊で代替としてのニュータイプが必要になったため、その少年がその部隊に入ることが出来るように、その部隊に入るための技能評価試験の諸々のデータを改竄することで、士官学校卒業したてという身でありながら教導隊に入隊した―――)
脳みそが肥大化しながら拍動する。
それは。
それは。
それは―――。
臓腑が痙攣する。胃が不気味に拡張し、一気に収縮する。吐き出すものなど何もないせいか、胃やら腸やらをそのまま吐瀉してしまいそうになる。
(なぁ、ハイデガー少尉。お前のことだよ)
視神経が途中で断裂する。眼球が潰れ、鼓膜の奥の器官が挽肉みたいにシェイクされる。
人形、という言葉が液体となって脳髄の皺の一つ一つに浸透し、その内部へと浸潤する。ぎちぎちと音を立てながら思惟に食い込んでいく。
人形。遊び道具として、玩具として、誰かに支配されるもの―――。
「嘘だ……」
足元に広がっていた大地がぼろぼろと崩壊していく。視界に広がっていた世界に断裂が走り、その隙間からどす黒い何かが侵入してくる。
全身が強張る。そんなはずがない、と頭の中でヒステリーじみた声が上がる中、囁くようでありながら、鼓膜をすり抜ける声が聴覚神経を悪戯っぽく触れる。
そうだ。そうだ
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