84話
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声なのかはわからなかった。
だが、わかることはある。クレイ・ハイデガーにとって、あの白い『ガンダム』は撃ち滅ぼすべき敵である、ということだ。
(やはり中佐か! エレアをどこへ―――!)
操縦桿を握りしめる。歯が砕けるほどに歯噛みし、ただあの『ガンダム』の殺戮だけを専心し―――。
(大尉にはしばし黙っていて貰おう―――私はそこの『人形』と話があるのでな)
ロックオン警報が耳朶を打った。前方からではない。ロックオンレーザーは、後方から―――。
ディスプレイに背後の映像が表示される。小さく開いたウィンドウの向こうで、青白い《リゼル》がビームライフルを構えていた。
(動くな。ビームライフルがコクピットを狙っているぞ)
「お、お前―――!?」
見知った声―――でもやはり、それはどこか聞き覚えのない声色だった。その声はいつも穏やかで闊達で、素直さを感じさせる声だった。だが、その声がただ低く、何かに押し潰されてしまったかのような声色となって、クレイの鼓膜を揺らしたのだ。ただ、クレイは、何故その男の声に聞き覚えがあるのか、よくわからなかった。
(さて、久しぶりだな? クレイ・ハイデガー少尉)
男の声が自分の名前を呼ぶ。
「あんた、なんで俺の名前を知っているんだ?」
言いながら、クレイは何か違和感を覚えた。クレイはその男の声に聞き覚えがあった。つまり、その男は自分を知っているのだ。名前を知っているなど、道理であろう。
だがそもそも、どうして自分はその声に聞き覚えを感じているのだろう?
(そうか―――そこまで行ったか)
「何を、言っている?」
ずきりと頭のどこかが軋む。それを聞いてはいけない、と何かが叫ぶ。心臓が拍動するように脳髄が、脊髄が脈打ち、それ以上考えるなと悲鳴をあげる。
(何、そう難しいことではない)無線通信の向こう、微かに微笑を含んだ声が脳を揺さぶる。
男の声が―――何故か愉悦を含んでいるようなだが、何故か、むしろ愉悦などよりも、確かに怒気を孕んだ声、クレイの耳の奥の蝸牛を揺らし、リンパ液に波を起こし、聴覚神経に奇妙な孕みを持った声となって、クレイの脳髄に突き刺さる。
(貴様は、ただ、最初から誰かのお人形だったというだけの、話だ)
何か。
何か、硝子が地面に落ちて粉々に砕けたかのような音が、頭の中で鳴り響いた。
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