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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
84話
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、激痛と不快がぐちゃぐちゃに混ざり合った感覚が身体中に広がっていく錯覚を覚えた。背骨から這い上がった煮沸液が脳髄に逆流し、人間の重要な器官が熱で死んでいく恐怖と痛撃の絶頂。絶叫が口から出なかったのは、強靭な意志でもなんでもなかった。ただ、己の身体が拉げるほどに強張り、声を上げるどころではなかっただけだった。
 先ほどからだ。大地が波打つような、理性的意思が吹き飛んでしまいそうなほどの混濁した感情が、全身の神経を凌辱していく感覚が自我意識を飲み込んでいく。その癖理性的意識―――いや、もっと根源的な存在が星光のもとに照らされていく、私の実存の鋭敏化の感覚という両極が同時に己の持続を支配していく、逆ベクトルの脱-自我が断続的に生起する。
 頭蓋の一番奥が、身体の皮膚が痙攣する。ブローカ野とウェルニッケ野が肥大化し、誰かが何かがそれが声を囁く。
 知っている。この迫りくる圧迫を、クレイは知っている―――。
「来る―――」
(あ? なんだ、何か言ったか?)
「敵が、奴が、来る―――」
(敵ってレーダーはミノフスキー粒子で―――!?)
 レーダーが接近警報を打ち鳴らす。操縦桿を握りつぶすように持ちながら、クレイはCG補正された常闇の向こうに蒼い瞳を向けた。
漆のような宇宙(そら)の向こう、光の翼が閃く。真空でも雄々しく果敢なく翼を撃つ音が耳朶を打ち、真空が震えた。
 神経が痙攣する。レーダーが捉えるより早く、己を指向する刺すような意思の志向を感じたクレイは、それが攻撃であると理解した。
遥か漆黒の果てで何かが閃く。亜光速の閃光の迸りは鋭利な光の槍が《ガンダムMk-X》を貫き、炎の球を膨れ上がらせて―――。
 頭蓋の最奥と皮相で膨れ上がったその幻想に嘔吐感がせり上がりながらも、クレイはフットペダルを踏み込み、スラスターを逆噴射させた。ほぼ同時に、視界の果てで星光とは異なった鋭い閃きが蠕動する。遥か漆黒の果て、亜光速で閃いたメガ粒子の槍が回避挙動を取った《ガンダムMk-X》を掠めた。
 《ガンダムMk-X》の計器が敵を捕らえる。
 機種特定不明―――しかし、先ほど遭遇した機体と同機種であることを認識し、クレイは操縦桿を握りしめた。
 スラスターの光が弾ける。全天周囲モニターの向こう、常闇の真空で静止した白い機体の双眸が、ただクレイだけを見据えた。
 左腕が喪失していた。右手に持ったビームライフルは、先ほど持っていたロングバレルのビームライフルではなく、ネオ・ジオンのビームライフルになっていた。それでも、その白い神話の威容は微か程にも損なわれず、クレイの視界の先で存在していた。
(やぁ諸君、相変わらずだね)
音声通信だけのオープン回線での無線通信だった。クレイは、そのミノフスキー粒子に干渉され、雑音塗れの声に聞き覚えがあったが、それが誰の
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