79話
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自己、《私》という存在について。
《私》とはどこに在るのだろう。肉体の牢獄の内に縛り付けられている何者か、内なる人―――観念の親戚―――のことを《私》と呼ぶのだろうか。肉は単なる服属品であろうか。
それともこの肉も《私》であろうか。身体を持った《私》。意味を生み出す身体。
それとも《私》などというものは存在ではないのかもしれない。意味としての《私》、フェルトセンスとしての《私》。
《私》の範囲はどこだろう? 皮膚の内側だろうか。では環境と接する外側の皮膚は《私》だろうか。それとも《私》とはより広く取り得るか。私の意識されるもの、自我が《私》であろうか。他者も《私》だろうか。他者と私にはやはり境界線があるだろうか。超えてきてはならぬ柵、不愉快な侵入者。他者は他者、私は私。
じゅーじゅー、ぱちぱち。
《私》がこんがり焼けていく。《私》が何なのかはよくわからないけど、蒼い焔に焼かれた《私》は所々焦げ目がついていていい匂い。
じゅーじゅー、ぱちぱち。
《私》がこんがり焼けていく。《私》が何なのかはよくわからないけど、蒼い焔に焼かれた《私》はお皿に盛られておいしそう。
じゅーじゅー、ぱちぱち。
《私》がこんがり焼けていく。《私》が何なのかはよくわからないけど、蒼い焔に焼かれた《私》、いただきまーす。
すっかりお皿の《私》は食べられてしまいました。
綺麗なお皿の上、《私》はすっかり無くなってしまったのでした。
※
格納庫の入り口から中に入ったクレイは、視覚野を刺激した光景に足が動かなくなった。
胸の中を焦がす感情。早く己の為すべきを為さんという意思に対して、クレイの判断器官は眼前の光景を理解できなかった。
毎日という程ではないけれど、それに近い数この格納庫には足繁く通っていた。目を瞑っていたって物にぶつからずに歩けるほど、クレイにとってその場所は親しみのある場所の筈だった。
忙しなく行きかう整備兵。20mほどの巨大な第4世代MSがずらりと並ぶ壮観。その巨人を拘束するようなガントリー。鼻をつく油の臭い、鼓膜を無思慮に触れる喧騒。それら全てはクレイ・ハイデガーにとって馴染んだ現象だった。
だがそれがわからない。まるでこの場に初めて訪れたような感覚、新しい学校に入り、周りの人間が誰もわからないあの奇妙な緊張と余所余所しい感覚、世界からのあぶれ者になった感覚。異邦に訪れたかのような未視感―――。
「何してるの?」
不意に肩を叩いた音に奇妙なほどに驚きの感情を惹起させた。
振り返れば、ジゼル・ローティが不思議そうな顔をしてクレイを覗き込んでいた。
砂金を思わせるプラチナブロンドの髪に、サイドの一部を編み込んだその髪型。彼女の顔は、クレイに
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