79話
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い閃光が視神経を焼き尽くす。爆風に吹き飛ばされながら、クレイはなんとか焦げた視神経を励起させ、その白亜のガンダムを捉えた。
スラスターを噴射させたガンダムが“河”の穴へと向かう。黒い《ゼータプラス》はまるで奴隷のように白いガンダムの側に付き従い、宇宙と繋がる穴へと向かっていく。
彼女の名前が頭の中で乱反射する。
行ってしまう。このままでは彼女はどこか遠くへ行ってしまう。自分はまだ、何も誓いを果たせていないのに。
行かないでくれ、独りにしないでくれ―――操縦桿から手を離して、強張る右手を伸ばした。
小さな彼女の手。白い肌は雪のようで、だけでど触ってみたら温かくて柔らかい手。伸ばせばその小さな手はいつも握り返してくれて―――。
漆黒の《ゼータプラス》は、クレイに一瞥すらくれなかった。白いガンダムがビームライフルのトリガーを引く側を通り、そのぽっかりと開いた昏い穴から外へと飛び出していく―――。
《ゼータプラス》と入れ替わるようにして、MS1機を優に上回る風穴からコロニーへと飛び込む機影。モスグリーンに染められ、十字架を想起させる顔に単眼を閃かせる愚鈍そうな機体はコロニーの中へ侵入するや、一目すら躊躇うことなくクレイの元へと突撃する。
白いガンダムの緑色の光がクレイを見据えた。睥睨するような、哀れみを滲ませたような目をした白いガンダムが異形の翼を羽搏かせる。
(―――『白雪姫』は頂いていく)
酷く抑揚のない声が耳朶を打つ。誰に向けられたでもない声、己だけに向けられた声。
白亜のガンダムがスラスターを焚く。行きがけの駄賃とばかりにメガ粒子砲を撃ち込みながら反転したガンダムの背が網膜に焼き付く。
あの白いガンダムの背は単なる物以上の存在でありながら、何事も語らず、語ろうともせず―――語ることが罪だと自覚するその背が、闇の中へと溶けていった。
(クレイ、来るぞ!)
切迫したような攸人の声。奥歯が砕けるほどに歯を噛みしめたクレイは、左腕の3連装機関砲を構える《ドライセン》を正面に捉えた。
自分の口に最もなじんだ名前、愛した名前。口から出かかった名前を呟くことすら許されず、クレイはバックパックからハルバードの柄を引き抜いた。
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