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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
78話
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と格納庫を眺めた。「さっき戻ってきたばかりだ」
 そうですか、と言うクレイの声は自然と安堵を含んだ。何や間やで士官学校からの同期だ。ずっと親密だったわけではないし、切磋琢磨し合った仲という程の間柄でもないが、やはり古い顔馴染であることに変わりはない。なんでもそつなく、というかなんでも水準のはるか上のレベルで熟せる男なだけに上手く切り抜けるだろうとは思っていたが―――。黒髪の東洋人の顔を思い浮かべ、クレイはただただその存在に驚愕するばかりだった。
 「一応聞くのだが……」俄かにフェニクスが言いどもり、微かに眉を顰めた。
「大丈夫か?」
 「ええ、大丈夫ですよ」クレイはフェニクスのその仕草に意外さを感じつつも、強く頷いた。「これでも身体は頑丈な方ですから」
 そうか、と応えたフェニクスの表情は、先ほどの幽かな変化の残滓も感じられなかった。どうしてそんなことを聞くのだろう。だって自分は連邦の軍人でMSのパイロットなのだ。如何に実戦を想定した部隊でないとはいえ、状況が迫れば己で武器を取る覚悟はできている―――と迷いなくは言えないが、それが軍籍に身を置く者、人民の公僕としての義務であるのなら、時間の要請に従ってクレイは銃を取らねばならない。己の恣意的な格率を優先することは、正義とクレイにとっての善に悖ることであるはずだった。
「お前の《ガンダムMk-V》はすぐに出撃できる状態にある。5分後に出撃だ、いいな?」
「了解しました」
 敬礼して、そしてエレアと目くばせし合ったクレイは、自身の機体が鎮座している格納庫へと駆けた。
 その背後を見守る金属のモニュメント。
 原罪(きゅうさい)物性(エクリチュール)
 贖いの摩擦(シーニュ)
 立ち膝のまま佇む漆黒の《ゲルググ》の姿は、断罪の神判を受けるが如く―――。
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