77話
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見に似合わぬ俊敏でもって肉迫した。
ビームサーベルを発振したその巨体は、3合とも剣戟を重ねる間もなく敵を沈黙させていた。一太刀で左腕を切り裂き、体当たりと同時に最小の出力にしたサーベルをコクピットへ突き立てた。コクピットだけを焼き尽くされた漆黒の機体は、ビルに追突しながら死んだようにゴーグルカメラの光を喪い、亡骸と化していた。
息が荒い。肺が痛い。呼吸をするたびに、肺の中にぬるぬるした赤い液が流入していくようだ。
手が震える。咽喉はカラカラだ。じわりと目尻と目頭から流れた液が咽喉元へと流れていった。異様な嘔吐感がせり上がりかけ、咳き込んだ。どうやら自分がまだ生きているらしい、という事実を、呆然と眺めていた。
ディスプレイに通信の表示ウィンドウが立ち上がる。半ば無意識的にそれを開けば、その通信を行う機体の機内カメラがパイロットの顔を映し出していた。
(こちらレギンレイヴ、そこの《ゲルググ》、聞こえている?)
鼓膜に響いた音は、聞き覚えのある声だった。顔も、見知った顔だった。
(ハロー、ハイデガー君。ダイジョーブ?)
カメラの向こうで、その女性がにかっと笑みを見せる。その顔が何故か懐かしくて、何故か胸がぎちぎちと締め上げられているようだった。
(そっか、わかった。コロニーの中の掃除は私たちでやるから、君は格納庫のある方に戻ると良いよ)
その言葉と共に、道の向こうに佇立する白亜の天使が翼をはためかせる。宙に舞った天使を守るようにしてスラスターを焚いた青い機体が追従していく―――。
その内の1機の姿が、何故か網膜に焼き付いた。こちらに一瞥もくれずに去っていく青い愚鈍そうな機体。何故それを注視したのか、よくわからなかった。
※
ケネス・スレッグは後方を一瞥した。
機体ステータスからしてあの《ゲルググ》はまだ生きている筈だ。後は自力で格納庫へ戻るだろう―――。
FD-03《グスタフ・カール》。良い機体だな、とケネスは操縦桿を軽く握りなおした。性能と引き換えにピーキーな性能の《ジェスタ》などとは兵器としての完成度が違う。もちろん乗りなれた機体だからその分愛着もわくのだろうが。まぁ、依怙贔屓するくらい良いだろう。テロリストからなるべく無傷に《ジェスタ》を取り返したのだから、《ジェスタ》の開発者から文句を言われる筋合いもあるまい。
(良かったのですか?)
みさきの声が耳朶を打つ。機内カメラに映る
上官は―――グラム01のコールサインの隊長は、それに何も答えなかった。
自分たちの任務は確かにあのジオン出身の人間とその計画の影響のもとにある人間の護衛である以前に、この出来事を制圧することが任務だ。そこに私情を挟む余地がミリメートルも無いことは理解しているけれど―――。せめて声くらいかけてあげてもいいのではないか。
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