75話
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「敵だと?」
苛立ちを含んだ男の声には棘があった。無線越しの男の声も切実で、男の声を肯定する声がぶつぶつと鼓膜を突き刺す。
(いきなりコロニーの地面から出てきて……)
「同じ話を繰り返すな! それより高々《ゲルググ》の1機に何を手こずっている。市街地のMSなど貴様ら歩兵科のいい的ではないか!」
(それが、奴らもMSの直援がいまして……それが相当な練度の部隊で!)
無線越しの声に銃声が混じる。混淆した音が聴覚神経を刺激し、まとめて記憶野を励起させる。
オペレーション:シャルル・ド・ゴールに従軍していたECOSの動向が掴めていない。所詮は掌の上のダンスという言葉が脳裏を掠め、男は鼻脇の筋肉を険しく釣り上げた。
操縦桿を握る手の力を入れかけ、止めた男は目前の光景に目をやる。
暗い通路―――といっても18m以上ある《リックディアス》が通れるほどの広さはある―――が一直線に伸び、その先にはコロニー内部と外部を隔てる隔壁が1枚。厚さこそ数十cmほどはあるだろうが、ビームサーベルの熱の前ではさして問題ではない。
「ジョーカーの準備をしておけ。俺たちだけで仕留めるつもりだが、念のためな」
(了解!)
「小隊各機、聞こえているな? 俺たちの任務は目標コロニー内部に出現した正体不明のMSの駆除だ。蟻の一穴が巨大な堤を崩すとかいう格言があるくらいだからな……敵性対象は必ず潰す。いいな?」
全天周囲モニターに映る小隊の部下が了の応答を返す。肯きを返した男は《リックディアス》の左腕にビームサーベルを握らせた。
ディスプレイに表示される前方の隔壁との相対距離を確認し、スラスターを逆噴射させるタイミングを計る。
―――昔、こういうことがあった。
―――昔。
ティターンズに所属していた頃、こうしてコロニーの内部に侵入して、そうして―――。
想起はそこまでだ。知らず、全身に力を入れていたことにきづいて、男は全身を硬直させたまま、熱を凝らせた息を吐いた。
全て遠き記憶の断章。そこに善きものなど無く、砕けた理想はもう追想の彼方へ……。
計器に目を走らせる。内心でカウントを刻み、0になると同時にフットペダルを踏み込んだ。
ぐんぐんと視界に迫る灰色の壁。唇を内側から噛みしめ、《リックディアス》の両脚が隔壁を踏みしめる。突き上げるような衝撃が貫くのを呻き声一つなく噛み砕く。
逆手に持ち替えたビームサーベルを足元に突き立てる。粒子束は分厚い隔壁を容易に貫き、液化した真紅の岩石が吹き上げるような金属液が吹き出し、《リックディアス》に降り注ぐ。灰色の塗料を焼き、装甲に傷痕を穿つ。ディスプレイに表示される警報ウィンドウを無視し、装甲板をMS1機が通れるほどの大きさの正方形に溶断する。隔壁を強く踏みつけ、歪んだ装甲板が脳みそにそのまま突き刺
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