74話
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「ようやく逃げ切れたか」
裏路地から顔を出したオーウェンは、視線をクレイとエレアに向けると微かに安堵を滲ませた。いつも無表情で、あまり感情を表に出さない質だっただけにそれだけでも以外だったが、クレイにしてみればその事態を気にしている余裕は無かった。
「エレア、クレイ、怪我はないか?」
「わたしは無いけど」
クレイの腕の中でエレアは心配そうに見上げた。
エレカを放棄し、徒歩に切り替えてから1時間。その間、クレイはずっとエレアを抱いたままだった。雪の中ヒールで走るのは無謀だし、映画であるようにヒールを折って歩くにしても路面が凍結していてどちらにせよ危険はある。脱ぐにしても結局は同じなのだ。
結果エレアを抱きかかえながら1時間走り回っていたわけだが、自然とクレイは疲労を感じてはいなかった。もちろん疲労が無いわけではないのだが、どこか他人事のように疲れているらしい、と理解しているという奇妙な離人感を伴った疲労だった。
どうやら自分は左程疲れていないらしい、と自己分析したクレイは、「別に大したことは無いよ」と笑みを見せた。そもそも50kgを少し超えるくらいの彼女を1時間抱きかかえるくらいで疲労を感じるほど、軟な鍛え方はしていないという自負もあった。
「なら良い。クレイ、そろそろ目的地に着くからエレアを降ろしてもいいぞ」
「あ、はい」
膝を曲げながら、エレアの背中を通して腋に入れた腕はそのままに、彼女の足を抱えた右腕をゆっくりと下に降ろす。おっかなびっくり足をコンクリートの地面につけて立ち上がったエレアは「ありがと」と言いながらもどこか不安げにクレイを見降ろした。
「オーウェンさん、貴方はどこまで―――」
「俺も知らん」
言い終わる前に、オーウェンは素っ気なく言った。
「俺はただ、何かあったらエレアとクレイを守るようにと隊長に言われていただけだ。今回の事態を把握しているわけではない」
「隊長が?」
「あぁ。ただ隊長にしても、今回の事件の目的がエレアの強奪にある、ということ以上のことは把握し切れていない」
エレアの、と言いかけたクレイは、サイド3のあの出来事を想起した。
人為的な発現体とはいえエレアはニュータイプだ。否、むしろ人為的なものであるが故に研究対象として有意義であるともいえる。解らない話ではないが、それにしてもただエレアを手に入れるだけでコロニーを―――地球連邦を敵に回すことなど幾らなんでもリスクとリターンが吊り合っていない。
オーウェンを一瞥する。
オーウェンとて、あるいはフェニクスとて、事態は把握し切れていない。
「まだ軍に入って1年も経ってないんだけどな……」
思わず後頭部を掻く。
軍人は権力の中で満面の笑みを浮かべながらダンスを踊っているものだが、基本その権力の存在を知覚することは無
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